『毎日新聞』三重版2007年6月12日付

岐路に立つ大学:世界に誇る独自性出したい−−豊田・三重大学長に聞く


三重大学は先月末、財政当局が国立大への運営費交付金を科学研究費補助金の配分に比例して交付する案を示したことに強い懸念を示し「地方における国立大の意義を訴える」と題した緊急声明を文部科学省に提出した。これを支持する意見を野呂昭彦知事や松田直久・津市長も表明。波紋が広がっている。岐路に立つ三重大のかじ取りを担う豊田長康学長(56)に、声明を出した経緯や最近の大学を取り巻く状況を聞いた。【高木香奈】

◇一面的評価に危機感

−−学長就任後の3年で、国立大を取り巻く環境は変わりましたか。

変わりましたね。法人化で大学の自主性に任される部分が増えた一方で、国の支援が減って経営の効率化が求められるようになりました。学長になってから経営学の本をずいぶん読みました。

−−声明を発表した経緯を教えて下さい。

法人化後の外部評価を来年に控え、努力しているところでした。それを無視して一面的な評価軸で、しかも一部の大学だけに多く交付している科研費を元に交付金の配分を決めるのに強い危機感を覚えました。

−−反響はありましたか。

津市長が賛同して文科省への要望書を作成、知事も知事会で取り上げて頂いた。素早い対応をありがたく思います。さらに多くの人に理解を呼びかけていきます。

−−国際競争力のある大学養成に向け、競争原理を導入するという考え方はどう思われますか。

それ自体に異論はありません。ただ評価基準が一つだけでは、一部の大学の国際競争力のみが上がり、日本全体のレベルは下がってしまいます。

−−地方国立大はどこも個性がなく“ミニ東大化”しているとの批判がありますが。

地域に密着した研究教育活動は中央にいてはできません。例えば、住民と信頼関係を築いた上での地震防災にかかわる研究などです。産官学による英虞湾の水質改善プロジェクトなど、地方大ならではの個性的な研究があります。世界に通用する研究を発表している教員もおり、絶対数では東京の大学には及びませんが、少ない研究費と予算で効率的にやっていると思います。

教育学部は、県内教員の人材育成を担っており、医学部の学生募集で県内出身者枠を増やすなど、地域医療でも貢献しようと努力しています。

−−これからの三重大にとって課題は何だと考えますか。

厳しい時代です。今まで以上に地域の住民のニーズに応え、世界に誇れる独自性を打ち出す必要があります。思いきった学部・研究科の再編成も視野に入れていますし、企業や地域の他大学との連携も大切です。

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◆プロフィル

◇とよだ・ながやす

1950年、亀山市生まれ。76年に大阪大医学部を卒業後、三重大医学部付属病院助手、講師などを経て91年に同大医学部教授。04年に国立大学の学長としては最年少の53歳で学長就任。医学博士。専門は産科婦人科学。