『伊勢新聞』2007年6月2日付

コラム大観小観


▼三重大学の豊田長康学長が国立大学運営費交付金が半減する財務省試算に怒りの緊急アピールを出した。いわく「地方における国立大学の意義を訴える」

▼行政改革の一環として十年前に国立大学の法人化の動きが出てきて以来、それまでどちらかといえば地域との連携に疑問符も投げかけられていた三重大だが、生まれ変わったように地域共存路線を猛進したのは事実。評価制度を積み上げ、地域との共同研究や受託研究件数は全国立大学中十三位。県内経済効果が四百二十八億円にまでこぎ着けた。なのに、科学研究費補助金の配分割合などに基づいて試算などされては「工夫して頑張ってきた努力を一瞬にして瓦解させる」というのである

▼国の指導通りやってきたのに裏切られたというニュアンスを感じなくもない。文部科学省と財務省との調整がどの程度進んでいるのかは知らないが、四年前の国立大学法人法成立以来、国が競争的原理を加速させてくるのは、ほとんど予測できていた。設置主体が国から国立大学法人に移り、経費負担の「自助努力」が義務付けられた。長期借り入れ、債券発行が認められ、いわば資金調達の裁量権も委ねられた。いつその実行を迫るか、国の胸三寸に納められている状態だったのだ

▼国はいよいよ衣の下のよろいをちらつかせ始めたと言えなくはない。今回乗り切っても、いずれ流れを押しとどめることができなくなろう。国立大学法人の内部分裂を画策するなど、国の手口は巧妙だ

▼「一部の大学を恣意的に厚遇し」などと、豊田学長も、まんまとその手に乗ってはなるまい。