国立大学運営費交付金配分の際限ない競争主義化と大規模な再編統合への道を開く教育再生会議第二次報告

2007年6月13日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

1.はじめに

教育再生会議は6月1日に第二次報告を提出した.高等教育についてかなりのページが割かれ,焦点となっている国立大学の運営費交付金については,「教育研究の基礎的な部分をきちんと支える」とは述べているものの,「@教育・研究面,A大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき大幅な傾斜配分を実現する」として成果主義的な配分への道を開くものとなっている.このため,運営費交付金の競争的配分の口火を切り,国立大学関係者からの批判が集中した経済財政諮問会議の有識者議員が大いに満足する内容となってしまっているのである.

そもそも,教育再生会議は,教育基本法「改正」が議論されている昨年10月に,教育改革プランを官邸主導で議論するために閣議決定によって作られた組織であり,ノーベル賞受賞者で中教審委員をはじめ文科省関係の役職に多く就いている野依良治氏を座長に,著名な学者や財界人などで構成されている.しかし,設置を根拠づける法律がないため権限や決定の拘束力,中教審との関係などが不明であること,メンバーに教育現場に精通している人が少なく教育学の専門家もいないことなどなどから,稔りある議論が期待できるのかどうかという疑問を当初から抱えながらスタートしたのであった.実際にこれまでの議事録を読んでも,議論の過程は,事実を集めて分析し方針や方向性を見出すこととはほど遠く,自己の体験のみに基づく井戸端会議的な発言に終始しているといっても過言ではない.第一次,第二次と二つの報告書の内容も日本の教育の実態分析に基づいて体系的に組み立てられたというよりは,いろいろな考えを雑然と並べた感が強く,報告書と呼べる代物ではないことは誰の目からも明らかである.「教育再生会議−一から出直したら」(6月2日朝日新聞社説)に代表される報道が目立つのは当然であろう.

運営費交付金配分の問題は当初は教育再生会議の議題として掲げられてはいなかったが, 2月27日の経済財政諮問会議の有識者議員による国立大学の運営費交付金の競争的配分の提案にはじまって,規制改革会議や財務省なども次々と同様の主張をするようになった.安部首相の指示で,急遽,教育再生会議が来年度予算編成の基本を作る「骨太方針2007」へ向けてのこの問題の取りまとめを行うことになり,大きくクローズアップされることになったのであり,本質的な議論が行われてきたとは言い難い.

本論においては,まず,教育再生会議の議論経過,第二次報告の内容,とりわけ運営費交付金に関する内容について多方面から批判的検討を加える.そして,国立大学協会(国大協)が教育再生会議第二次報告を毅然として批判すること,さらに国立大学の全体の現状,なかんずくその財政状況を深く分析し,国立大学総体の危機を打開する方針策定の活動を速やかに開始するよう強く要望する.これらの活動は,「各国立大学法人が実施する教育・研究及び社会貢献に関する多種・多様な活動において,質の高い成果を挙げるための環境作りを行い,もって国立大学法人の振興と我が国の高等教育・学術研究の水準の向上及び均衡ある発展に寄与する」(定款第4条)という国大協の目的を実現する道である.1950年の設立以来,国大協は繰り返し,自らを「国立大学の連合体(フェデレーション)」と位置づけてきた.いまこそ,国大協は連合体としての機能を十全に発揮し,国立大学総体の危機を打開するために,全力をあげることが求められている.


2.経済効率第一,選択と集中の路線に屈服した教育再生会議

4月中旬の時点では,「政府の教育再生会議は16日,教員数や学生数を基に算定している国の国立大学に対する運営費交付金を,教育・研究・運営の3分野の実績評価を重視した配分に改める提言素案をまとめた.大学運営も評価の対象とすることで人件費抑制など経営努力を促す.同時に,来年度予算編成に向けて交付金総額の維持を打ち出し,政府の年1%の減額方針の見直しを求める.5月の第二次報告に盛り込む」(4月17日毎日新聞)というような総額維持の方針を伝える報道がされ,運営費交付金の競争的経費化の徹底と再編統合を重視する経済財政諮問会議や規制改革会議などの間で若干の意見の相違があったと伝えられている(たとえば4月20日読売新聞).

しかし,4月23日に経済財政諮問会議ほか関連する政府系の4会議(総合科学技術会議,規制改革会議,イノベーション25戦略会議,アジアゲートウェイ戦略会議)の代表を招いた教育再生会議合同分科会での議論は,競争の強化によって選択と集中を進めるという点で意見が一致した.一方で高等教育を扱う教育再生会議の第三部会における財政面での議論では,経済学関係者や財界関係者から予算拡充に対する反対の声もあって財政基盤強化について詰めた検討が行われたとは言い難い.報告書の骨格もできている段階の5月18日の部会においては,出席した塩崎官房長官からは「財政面では遠慮されているのではないか.教育再生特別枠のような形で入れられるかは別にしても,提案はしていただいた方がいいのではないか」と助言を言われるありさまであり,最終の二次報告書では,財政基盤の強化については,小宮山議員のみが教育再生特別枠での増額の主張を行ったが,最終的には後で述べるように競争的配分に大きく踏み込む表記になった.

そもそも幅広く高等教育関係の人材を集めることをしなかった教育再生会議が,ただでさえ財界や財務省などの意向の強く働いている経済財政諮問会議や規制改革会議,イノベーション25,アジアゲートウェイなどの意見を踏まえた形で高等教育に関する報告をとりまとめるというのであるから,教育研究現場からの声は圧倒的少数派になってしまうことは予め想定済みであったのかも知れない.しかし,それでもなお,教育再生会議が日本の高等教育や基礎研究を守り発展させるという立場を堅持して,高等教育の財政基盤強化を正面から強く訴えるべきではなかったではなかろうか.今回の経過を見れば,教育再生会議が,学問研究よりも経済効率重視の財界や財務省サイドの路線に,原理的な批判を加えることもなく屈伏したと言ってもよいであろう.

教育再生と銘打った会議であるが,現在の大学・大学院にとってどこが主たる問題点であり,何を再生させるべきなのかは第二次報告で明確に述べられていない.とりわけ国立大学は2003年の法人化というかつてない大きな改革をしており,新しい枠組みの中でそれぞれの大学が様々な取り組みを進めているところである.そのような状態で,しかも法人化の総括もないままに「再生せよ」と言われても大学・大学院の当事者は戸惑うのみである.この第二次報告の基調は,ともかく競争を激化させて選択と集中を進めるというものであり,教育研究の前線にたっている教員や事務職員,技術職員,病院職員などを励ますどころか,萎縮させ,不安感を募らせるものでしかない.


3.教育再生会議第二次報告の本質

(1)経営破綻を脅しとする再編統合の推進

教育再生会議のみならず,財務省,すべての政府系会議において,競争の強化と大学・大学院の再編統合の推進がうたわれている.教育再生会議の議事録にも,一般市民代表の委員や経済界の委員などから大学の数が多すぎるという意見が出されている.しかし,少子化や18歳人口の減少,経営効率などを理由とする多分に印象批評的なものであり,各個別の大学・大学院の人材養成の実態や地域における貢献などをみたものではない.

第二次報告においては,国は,「国立大学の学部の再編等,国立大学の大胆な再編統合等,18歳人口の減少を踏まえた国立大学の学部入学定員の縮減,一つの国立大学法人が複数大学を設置管理できる仕組みを作る」の自主的な取組みを促進するとしている.ただ,「自主的」とは形の上だけであり,兵糧攻めのように基盤的な経費を削減していき,このままでは経営が成り立たないようにして,大学側が自主的に改革せざるをえないように持って行くのが常套手段である.文科省や財務省が公表した,競争的資金の配分に応じた運営費交付金の配分のシミュレーションにおいて,教員養成系や地方の国立大学で軒並み運営費交付金が大幅に削減される結果となり,多くの関係者を震撼させたことは記憶に新しい.実際にそのような配分をするかどうかはともかく,その試算結果の公表だけでも経営破たんという脅しとなり,大学をさらなる競争主義に駆り立てていくのである.

第二次報告で「一つの国立大学法人が複数大学を設置管理できる仕組みを作る」とされているが,これなども一種の中間的な形態を設けることで,より再編を加速化させることになろう.経済財政諮問会議の有識者議員提案の中心であり,東大教授でもある伊藤隆俊氏は,“努力した大学に「選択と集中」を促すような交付金制度にすることで,大学は一番弱い学部を閉じ,国は成果を出さない大学への交付金を大幅削減する.この方が,国全体の教育水準,研究水準を競争を通じて強化することができる”(日経4月2日)と意図を述べている.

(2)「機能分化」の内実は整理統合のためのランク付けと大学システムの解体

第二次報告では,大学・大学院は,「研究中心」,「教育中心」,「地域密着」のように機能分化すべきであると述べられている.しかし,これを額面通りに受け取る人はいないだろう.たとえば,国鉄解体を推進したことで知られる葛西議員は4月23日の合同分科会の席上,上記の機能分化に対して“「世界の最先端の大学と競争できるような戦略的な大学・大学院」というものを1つのカテゴリーとし,2つ目のカテゴリーは「平均的な日本人の学力を高める大学・大学院」,そして3つ目は,子供の数が減ってきているので,「整理統合,廃止する大学・大学院」というカテゴリーに分けて,既存の予算の中でどこまで効率化し,パフォーマンスを上げられるかということのプランをまず書くべきではないか.その上で「この部分は強化する」という形で改革を進めませんと,いろいろなものが出てきて,結果百家争鳴みたいな形になる.腐った木から色とりどりの毒キノコが出てきて,それがそのまま生き残ってしまいますと,財政の効率化を著しく悪くすると思います.そこはやはりきちんと土台,きれいごとではない土台をつくって,国家戦略を明確にして進めるべきではないかというふうに思います”と述べている.いかに地域密着というような美辞麗句を並べようが,結局それらはランク付けすることで再編統合を推進しようというのが推進側の本音なのである.ある国立大学が地域との連携重視を個性として打ち出すことはあり得るが,「地域密着型」というようなカテゴリーをあらかじめ作りそれに各大学を流し込もうというのは,国からの押し付け以外の何物でもない.しかも,こうしたランク付けはこれまで各大学間で積み上げてきた共同協力のシステムを根本から解体させることに繋がる.広大な拡がりを持つ共同協力のシステムがなくてどうして葛西議員のいう「世界の最先端の大学と競争できるような戦略的な大学・大学院」を作ることができるというのか.

(3)運営費交付金の競争的配分への誘導

第二次報告では具体的な方針として運営費交付金について以下の3項目があげられている.
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■国立大学法人運営費交付金で教育研究の基礎的な部分をきちんと支えると同時に,競争的資金を大幅に拡充し,各大学が切磋琢磨し,多様なインセンティブ・システムを導入しやすい環境を整備する.
■国立大学法人運営費交付金は,次期中期目標・計画(平成22年度〜)に向け,各大学の努力と成果を踏まえたものとなるよう,新たな配分の在り方の具体的検討に着手する.
■運営費交付金の配分については,@教育・研究面,A大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき大幅な傾斜配分を実現する.その際,第三者評価たる国立大学法人評価の結果を活用する.
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運営費交付金問題に関する朝日新聞6月8日の報道によると,山谷首相補佐官は会見で,記者からの「運営費交付金が減る大学が出るのか」という問いに対して一切答えなかったという.この3項目の方針において重要なのは,運営費交付金が減るかどうかではない.第1項のいうインセンティブ・システムの導入,第2項のいう努力と成果を踏まえた新たな配分の在り方の検討着手,第3項のいう第三者評価たる国立大学法人評価結果の活用,を通じてこれまで標準外形的な基準で決まっていた運営費交付金の性格を一変させる橋頭堡を築いたことである.それが証拠には,この第二次報告を受けて経済財政諮問会議の有識者委員は6月4日配布の文書で「国立大学運営費交付金や競争的資金の改革など我々の提言が数多く盛り込まれており,高く評価したい」と諸手をあげて歓迎の意を表し,同日公表の「基本方針2007(素案)」においては,「国立大学法人運営費交付金で教育研究の基礎的な部分をきちんと支える」の部分は完全に削除されているのである.教育再生会議の第二次報告は経済財政諮問会議の路線への露払いと言われても仕方がないであろう.

伊吹文部科学大臣自ら6月5日の会見で,「国立大学法人運営費交付金の話ですが,昨日,いわゆる骨太の方針2007の素案ができて,そこには先ほど大臣がおっしゃった基盤的部分というのが抜けた書き方をされていますが,これについてご所感をお願いします」という質問に対し,「まだ調整しているのではないでしょうか.教育再生会議は教育再生会議のものを言えばいいわけで,都合の良いとこだけ取ってはいけませんね」と苦言を呈している.だが,苦言だけではすまされぬ状況に至っていることを認識しなければならない.

(4)学長選挙廃止への強引な誘導

第二次報告では,法人化の趣旨を踏まえて,「大学全体の経営に関することについては,教授会に任せず,学長のリーダーシップにより意思決定を行う」とか「学長選挙を取りやめるなど,学長選考会議による学長の実質的な決定を行うこととする」と国立大学の運営の改革について述べられている.しかし,法人化の趣旨については,国立大学法人法案への批判に答える形で,2003年の参議院文部科学委員会で遠山文科相(当時)が「国立大学の法人化は,国の財政措置を前提としつつ,日常的な規制を撤廃し,各大学の裁量を大幅に拡大し,大学の活性化を図るものであります」と明確に答弁している.文科省は法人化過程で学長選挙制度廃止を目論んでいたが,大学再編統合を強権的に勧める手段として,学長選挙廃止を強引に持ち込もうとしているのである.

(5)学生への負担強化

 授業料を各大学で裁量できる範囲が拡大した.財務省も学部別の授業料格差導入を主張している.運営費交付金が削減されると,経営維持のために,学費が値上げされる可能性が高い.ただでさえ,教員削減や教育研究経費の節約で勉学環境が悪くなりつつある中,学費まで値上げされることは学生にとって大きな打撃となる.勉学時間や研究時間を削って学費や生活費のためにバイトをせざるをえない学生も多数いるのである.これは教育の機会均等の破壊と格差社会拡大を意味する.


4.教育再生会議第二次報告の欺瞞

(1)画餅に帰す学問の自由

第二次報告では,「経済活動に短期的・直接的に結びつかない,人文社会科学,基礎科学や,世界的な課題である環境・エネルギー・食料等の分野についても,優れた教育研究が長期的・安定的に行われるよう留意します」という文言があり,あたかも学問の自由に配慮してかのような記述がある.しかし,財政的な裏づけがない配慮は単なるリップサービスに過ぎない.そもそも憲法23条で保障されている学問の自由は,国が大学における教育研究の財政的基盤を,広い学問分野にわたって支えて初めて意味のあるものとなるし,個々の研究者および組織としての大学が基礎的経費の使い道を決める権利を保持し,国による財政誘導を禁止することをも内容としていると考えられる.運営費交付金の基礎的経費を保証するものとしての性格を否定し,競争的経費化すれば,学問の自由は空洞化させられざるを得ない.

かつての積算校費制の下では,教員一人当たり,学生一人当たりの単価が定められており,それらの合計が大学に支給されていた.そのことは,教員,学生一人一人がその存在根拠を大学内できちんと保障できる最大のよりどころとなっていた.ところが法人化に先立って積算校費制が基盤校費制になり,大学上層部が財政を管理しやすいどんぶり勘定に改変された.それでもなお,基盤校費制のもとで,教育研究の前線においては,最低限の費用が補償され,学問の自由を辛うじて守るものとなりえていた.しかし,これさえもがなくなり,競争的資金に一元化されれば,学問の自由は画餅に帰すであろう.

(2)競争的資金の実態
 第2次報告では,「競争的資金の拡充と効率的な配分」は改革実現のための具体策のトップに挙げられるなど重要な課題と位置づけられているほか,経済財政諮問会議や規制改革会議なども合言葉のように競争的資金拡充を主張している.現在国立大学が受けている競争的資金として代表的なものは科学研究費補助金と運営費交付金の一部である特別教育研究経費である.前者は,あらゆる分野について研究者の自由な発想に基づく学術研究を発展させるために,ピアレビューによって個人あるいは少数の研究者グループに配分される資金であり,後者は各大学の個性に応じた教育研究の取り組みを幅広く支援することなどを目的に文科省による審査によって配分されて各大学に配分される資金である.両者の性格は大きく異なっており,これらを分けて扱うべきであることをまず指摘しておきたい.

科学研究費補助金については総額としてこの10年間で大きな伸びを見せているが,その内容をみてみると,個人もしくは少数の研究者を基礎とする公募形式の占める割合は約70%であり,残り30%は,文科省審査の「特別推進」,「特定領域」と推薦制の「学術創成」でいわば政策誘導型というべきものである.しかも,金額は増えているものの,新規採択率はこの10年間をみると逓減しており,25%を切っているのも大きな問題である.基盤的な研究費が不十分な現状で,少なくとも採択率50%程度でないと多くの教員にとって計画的な研究の遂行不能な状態に陥ってしまうだろう.

一方,特別教育研究経費についてはまずきちんとした総括が必要である.ひとつ問題をあげるならば,これは個々の教員・研究者ではなく,大学内の組織を対象にしたものであり,内実としては教員,あるいは教員グループの自主性で申請されるものではなく,執行部を中心としたトップダウン方式で申請書を作成している場合が多いという点である.さらに,5月25日付の科学新聞でも報道されているが,特別教育研究経費の総額は運営費交付金全体で2007年予算では7%にすぎないが,支出という観点からみると.以下のように研究教育に大きな影響を持ってくるのである.特別教育研究経費の総額786億円(平成17年度予算額)は,平成17年度の支出をベースとした教育経費 1,141億円 と研究経費 1,868億円の合計およそ3,000億円の20%強となり,決して小さな数字とはいえない.このように現場の感覚からすると,教育研究経費はすでに十分に競争的資金化しているのである.

さらに,文科省や財務省が運営費交付金の配分の基準として競争的資金の獲得額を用いていることからもわかるように,競争的資金は単に特定の目的のための資金というだけでなく,その組織の「業績」を示す指標として重要な意味合いを与えられることが最近増えている.しかし,文科省や財務省の試算結果が端的に示すように,競争的資金に基づく配分は,元々ある格差を二重三重の関係で拡大化させる傾向を持つ.そうなると地方大学を中心に存続できない大学が多数生まれてくることは確実である.このようなことは絶対に認められない.

(3)両立しない多様な評価軸を持つ緻密な評価と簡素化

 第二次報告では,大学の実績をどのように評価するかについて「第三者評価たる国立大学法人評価の結果を活用する」と書かれている.文科省や財務省が示した試算においては,ほかに一律で数値的な指標がないとはいえ,科学研究費補助金や特別教育研究経費の配分額などが指標におかれていたことを考えると,それよりはまともなものと考えられるかもしれない.しかし,文科省の国立大学法人評価に対しては,経済財政諮問会議の有識者議員の1名である丹羽宇一郎氏などをはじめ,非専門家による安易な評価との批判も根強く存在し,大きく改革させられる可能性もある.

文部科学省の国立大学法人評価委員会での評価は,今年4月6日に決定した実施要項において「国立大学法人評価は,教育研究の特性や法人運営の自主性・自律性に配慮しつつ,法人の継続的な質的向上に資するとともに,法人の状況を分かりやすく示し,社会への説明責任を果たしていくものでなければならない.その際,評価を通じて,教育研究の高度化,個性豊かな大学づくり,法人運営の活性化等を目指した法人の取組を積極的に支援することにより,評価が,長期的な視点から法人の発展に資するものとなることが重要である.中期目標期間の業務の実績に係る評価においては,各法人が自主的に行う組織・業務全般の見直しや次期の中期目標・中期計画の検討に資するものとなるよう留意する.また,評価結果を次期の中期目標期間における運営費交付金の算定に反映させることができるものとなるよう留意する」と述べられている.

 大学自身の質的向上や社会に対する説明責任を果たすための評価と,運営費交付金を査定するための評価はおのずとやり方も異なってくるだろう.また,教育や研究,社会貢献など大学の活動のあらゆる側面において多様な評価軸をもつ緻密な評価と,合理的かつ簡素な評価との両立も難しい.大学内に評価疲れの声が多くあがる中で,評価者・被評価者双方へ第二次報告は大きな課題を背負わせる内容といえよう.

(4)私立大学との格差是正論

第二次報告では具体的に取り上げられてはいないものの,私立大学との格差を問題にする意見は経済財政諮問会議や規制改革会議などから強く出されている.たとえば規制改革会議の委員である福井秀夫氏は5月28日の日本経済新聞で,私立大学との国立大学への学生一人当たりの公的助成を比較して「旧七帝大優遇でひずみ」が生じているとして,個人重視で成果主義的な助成の仕組みの転換を論じている.しかし,国立大学と私立大学の果たしている役割やその得意分野の違いは当然ある.特に基礎的な理工系の分野については国立大学が人材育成や実際の研究でもその多くを担っている.また,非常勤講師の割合をみると,2004年のデータであるが,国立大学で,専任教員61492人に対して非常勤講師が38793人とそのおよそ6割,私立大学では専任教員86838人に対して非常勤講師117946人とおよそ4割増しとなっており,私立大学は専任教員より多い非常勤講師の雇用による人件費圧縮によってある意味で経営が成り立っているのである.このような事実を無視して同じ土俵で議論をすることは無理があると言わざるを得ない.


5.国立大学に相応しい財政制度の構築を

(1)運営費交付金の根本問題

 現在の国立大学の最大の問題点は財政問題,とりわけ運営費交付金の仕組み自体にあるといって過言ではない.国立大学法人法案の審議段階では,運営費交付金は従来の交付金制度を引き継いで「収支差額補填方式」が想定されていた.しかし,法案成立後,財務省は強引に「総額管理・各種係数による逓減方式」を要求し,文科省はこれを受け入れたのである.この方式は政府や財務省サイドにとってみれば,前年度比何%削減というように,管理することは易しい.しかしその影響で実態に関係なく削減が課せられることとなり,個々の大学の現場では教育研究経費の削減や人件費削減が極限近くまで行われ,十分な教育研究がたちゆかない状況が生まれつつあるのである.さらに昨年度からの人件費5%削減も加わり,ほとんどの国立大学,とりわけ企業からの寄付など外部資金の獲得が困難な地方の大学や文系の単科大学においては,危機が進行している.

短期的にみれば,運営費交付金の増額と効率化係数などによる逓減方式の廃止という方法で事態の一定の改善は図れるかもしれないが,長期的展望にたてば,現在のどんぶり勘定的な運営費交付金制度を抜本的に改めることが必要になるであろう.

(2)正確な現状分析に基づく財政制度の構築に向けて国大協は直ちに行動を開始すべきである

 実は国立大学の財務構造にとって,法人化以前の2000年の積算校費制から基盤校費制へ移行が,根本的かつ原理的な転換であった.つまり,積み上げ型=ボトムアップ型の予算配分から,予算の一括配分を受けた本部・執行部が独自に配分基準・額を決めることが可能となるトップダウン型の予算配分となったのである.現在の運営費交付金方式は,基盤校費制を引き継いでおり,法人化前から,国立大学法人化へ向けての地ならしは進んでいたのである.積算校費制の是非はともかくとして,その時点まで遡って,国立大学に相応しい財政制度の原理的な検討が必要となろう.

国大協第六常置委員会はかつて1978年と1992年の二度にわたって国立大学財政の制度ならびに現状分析と方針についての報告を行った.特に1992年版では,全教員を対象とした詳細な実態調査に基づいて提言を出している.法人化後は国立大学財務・経営センターが分析・調査を行っているが,以前のような全教員を対象とする実態調査ではなく,大学経営陣の意識調査のようなものであり,現場の財務実態の把握と言えるものではない.

 国立大学の財政制度を考える上で現在必要とされていることは,まず,1978年や1992年版のような大学の教育研究現場の財務実態を詳細に把握することであろう.それがなければ,支えるべき基盤的経費がどのようなもので,それにいくらが必要になるかという説得的なデータとはならない.6月8日の衆議院文部科学委員会で石井郁子議員は「教員の本当の教育研究の費用が法人化前後でどのようになっているのか,数字をつかんでほしい」と文科省に実態調査を迫ったが,文科省は行う必要性を認めなかった.それならば,国大協で独自に行えばよいのである.

また,財務相の諮問機関である財政制度等審議会は6月6日,2008年度予算編成に向けた建議(意見書)を尾身財務相に提出した.「教育再生」をめぐり教育予算への歳出拡大圧力が強まっているが,「借金が増えるだけ」と教育予算の増額を強くけん制する内容である.国立大学における教育と研究を守り発展させるためには,財務省や経済財政諮問会議に対抗していかなければならない.しかし,今まで述べてきたように,原理的に屈服した教育再生会議を活用することはもはや現実的ではない.この点についても,国立大学が自ら対抗する論陣を張り,世論を作っていくことが重要である.

今回の問題で,国大協が5月15日にシンポジウムを開催したり,多くの大学学長が声明や意見書,新聞などへの寄稿という形で自己の見解を外へアピールしたりしたことなどはその出発点として深く敬意を表する.国大協は引き続いて独自に国立大学の教育研究に関する財務の実態調査を実施し,それをもとにして政府や議会,国民に対して国立大学の役割について説明し,財政基盤強化の必要性の理解を求める行動をおこすべきである.また,現在の運営費交付金制度に代わる抜本的な国立大学の財政制度を構想する必要もあるであろう.そのような行動には,我々も含め,多くの大学構成員は一体となって努力することを惜しまないであろう.