『日本海新聞』社説 2007年6月4日付

国立大学覆う暗雲 「知の拠点」はなくせない


今や大学は、志願者数と入学定員が同じという「全入時代」を迎えている。そこに地方の国立大学を震撼(しんかん)させる事態が進んでいる。国立大学の運営費交付金への成果主義の導入だ。

民間委員が火付け役

運営費交付金は現在、学生数や教員数、設備などに連動して配分されている。本年度予算では九十一法人(国立大学は八十七校)に総額一兆二千億円余りが配分された。旧帝大など大規模校への配分が多く、上位十校で全体の四割を占める。鳥取大学は約百二十億円で、平均(百三十二億円)を少し下回る配分だ。付属病院を除いて考えると、歳入の半額以上だ。

運営費交付金の配分の見直しは、今年二月の経済財政諮問会議に御手洗富士夫日本経団連会長ら四人の民間委員が提起した「成長強化のための大学・大学院改革」が発端。このなかで「大学の努力と成果」に応じた配分ルールへの変更を求めた。この意向は四月にとりまとめた「成長力加速プログラム」にも示され、六月に決定される安倍内閣の「骨太の方針2007」に盛り込むよう求めている。

こうした動きを加速するように、財務省がシミュレーション結果を出している。二〇〇五年度の科学研究費補助金の実績に基づき、〇六年度の交付金総額を配分し直すと、八十七大学のうち七十一大学で交付金が減額になる。さらに全体の半数を上回る四十八大学は五割以上の削減となる。鳥取大学、島根大学など多くの地方大学は五割以上削減組に入り、経営基盤そのものを揺さぶられる。

1万人超す集積

これはあくまでシミュレーションで、一定の条件を付した予測である。与件を変えれば結果も異なる。実際、特別教育研究経費を基に試算すると、減少は五十二大学と六割にとどまる。しかし、いずれも大学に競争原理と成果主義を導入すると、何が起こるかを如実に示すものになった。

国立大学も〇四年度に国立大学法人となり、大学としての質を高める努力を続けている。そうした努力や成果を客観的に評価し、さらなる成果の拡大に結び付ける取り組みは必要だろう。

問題は評価の基準だ。科学研究費補助金は全分野を対象にしてはいるものの、実績では理工系と医学系が全体の八割を占める。また、地方大学が国の補助金に頼らず自治体や民間企業と連携して進めている独自の研究などが切り捨てられることになる。

この問題は、五月三十日に開かれた県と鳥取大学の連絡協議会で大学側が提起した。「この方針が貫かれたら地方の国立大学は存続すら危うくなる」と強い危機感を表明。地方国立大学が持続的に発展できるよう、県に知事会などを通じて国に働き掛けるよう要請した。平井伸治知事が理解を示し、国への働きかけを約束したのは当然だ。

鳥取大学には今、大学院を含めて約六千五百人(うち留学生百六十五人)が学んでいる。このうちほぼ二割弱が県内出身者だ。教職員、事務職員を合わせて約千八百人の職場でもある。付属学校生や非常勤職員を加えれば一万人を超すだろう。

そして大学は、現に「知の拠点」として医療者や教師ら地元で活躍する人材を育て送り出している。乾燥地研究や鳥インフルエンザなど世界に誇る研究も行われている。産官学の連携を強め地元企業や自治体との研究を担い、地域産業の発展に寄与している。中国地方の中規模総合大学(山口大学)の存在自体が、県内産業に約六百五十億円余りの生産誘発効果を与えるとの文部科学省の委託調査結果もある。

先の厚生労働省の人口推計にみられるように鳥取県の少子・高齢化は一層進む。こうした社会でもっとも大切なのは人材だ。国立大学だけでなく、鳥取環境大学や鳥取短大を含めた知の拠点である大学を守り育てることは、過疎地域が分権時代を生き抜く生命線だ。