『福井新聞』論説 2007年6月3日付

国立大の交付金見直し 地方切り捨ての論理だ


財務省と文部科学省がホットな論争を展開している。火種は国立大学への補助金である運営費交付金だ。財務省が研究実績に応じて傾斜配分する見直し案をまとめたのに対し、文科省は多くの地方大学が経営危機に陥ると反発。議論は白熱している。

発端は経済財政諮問会議の民間議員からの提案だ。日本の国際競争力を高めるため、既に導入されている科学研究費補助金(科研費)のような「選択と集中」への移行を訴えた。だが同交付金は人件費や光熱費など大学のランニングコストに相当し、文科省や大学側は猛反対した。

■"負け組"のレッテル■

財務省が提示した試算によると、科研費の配分実績で運営費交付金を配分すると、増額されるのは東大、京大、阪大、東工大、長岡技術科学大などわずか13大学。

一方、金沢大や新潟大、横浜国大、浜松医科大など24大学は5割未満だが減額になる。福井大、富山大、東京芸大、愛知教育大、帯広畜産大など50大学は5割以上の交付金がカットされる。教育大と名の付く大学は10校を数える。

明らかに総合系の旧帝大や先端科学に特化した大学は優遇され、文科系や単科大学が不利なのは一目瞭然(りょうぜん)だ。実に85%の大学は予算が減額され"負け組"のレッテルを勝手に張られたようなものだ。

■無視できぬ地域貢献■

国立大学協会は即座に反論した。財務省提案では成果の見えやすい分野ばかりが評価され、基礎研究や自由な発想による研究は軽視されてしまう。国立大87校のうち地方を中心に47校が存続不能と、交付金の確保を要望した。

文科省も「交付金を25%減額すれば大学は機能停止し、50%なら即破たんする」と、あまりに乱暴な財務省方針に、地方大学の地域貢献を無視しているとくぎを刺した。

4大学をモデルに地元経済への波及効果を試算。この結果、山口大では生産誘発額が667億円、さらに9000人の雇用を生み出していると算定し、各校で年間400億から700億円の効果があると発表した。

■福井大のアピール■

財務省シミュレーションでは、地元福井大は約6割の減額だ。本年度予算を見てみよう。収支トントンの付属病院を除いた収入は約121億円。運営費交付金は66%の80億円を占めている。6割減額されれば48億円が消えてなくなる。

穴埋めするには授業料や入学金を高くしたり、入学者の増加が考えられるが、学生の負担増や施設の増築は現実的に難しい。

福井大では、同大出身の人材が県内の医師で3割、教員なら4割を占めることなど、地域貢献度を数字で示す資料を作成中だ。さらに経済波及効果も分析し、地元経済界などに存在意義をアピールするという。

■なじまない競争原理■

経済財政諮問会議には「努力しない大学がつぶれるのは仕方がない」「全都道府県に国立大が必要なのか」といった声もある。しかし都市と地方の格差が拡大する現状で、地域に密着した地場産業を支援してくれる機関がほかにあるだろうか。

「教育再生」や「成長力底上げ」を重点課題に掲げる安倍政権にとって、大学改革は格好の材料だろう。しかし教育に競争原理を一律に持ち込むことはどう見てもなじまない。ここは国大協や文科省の言い分の方が説得力がある。

ちなみに、日本の科研費に当たる米国連邦政府の支援金は、ジョンズホプキンス大が約1500億円、ワシントン大とスタンフォード大で700億円前後。わが国は東大193億円、京大118億円であることを付け加えておこう。(山下 裕己)