『科学新聞』2007年5月25日付

地方国立大の経済効果 顕著
運営費交付金議論に一石 文科省調査


地方の国立大学は、1大学で年間400億〜700億円の経済効果があり、6000〜9000人の雇用を創出していることが、文部科学省の調査で明らかになった。仙台にプロ野球球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」ができたことによる経済効果が97億円で、雇用創出は876人であることを考えると、国立大学が地域社会になくてはならないものであることが改めて証明された。国立大学運営費交付金の議論に一石を投じることになる。

文部科学省が日本経済研究所に委託して行った調査では、都・府・政令指定都市に設置されていない、いわゆる地方の国立大学のうち、弘前大学、群馬大学、三重大学、山口大学について、平成17年度の生産誘発効果、雇用創出数を試算している(表)。

経済誘発効果は、県内で使用する教育・研究活動の経費、教職員・学生の消費額、学会や病院、入試等の経費、施設整備費を積み上げて直接効果を算出、さらにその波及効果を加えることで算出している。

県経済全体へ667億円の経済効果を与えている山口大学の例を産業別に見てみると、化学製品(医薬品メーカーなど)67億円、商業(卸売、小売店、スーパーなど)115億円、食料品(食品加工業、酒造業など)40億円、建設(建築、建物補修など)28億円、不動産(住宅賃貸、不動産仲介業など)90億円、農林水産業30億円、対個人サービス(飲食店、ホテル、映画館、劇場、クリーニング店、理美容院など)52億円、運輸(バス、タクシー、トラック輸送、鉄道など)44億円。

その他、通信・放送、対事務所サービス、金融・保険、精密機械、電子機械などの産業で201億円の生産誘発効果がある。大学の教育研究の継続性から、こうした経済波及効果は持続的かつ安定的に生じており、県経済安定化の一翼を担っている。また、こうした経済波及効果は地方自治体の税収にもつながっていることから、地方大学の存在そのものが税の再配分機能を果たしている。

しかも、国費投入額のほとんどを占める運営費交付金は141億円であり、それで667億円の経済波及効果を創出していることからも、国立大学は良い投資先だともいえる。

また、経済波及効果を市内に限定して見てみると、弘前大学は163億円で市内総生産の2.9%を占め、4801人の雇用創出は市内従業者数の5.1%にものぼる。群馬大学は、196億円(1.7%)、6520人(9.1%)、三重大学141億円(1.7%)、5721人(5.8%)。山口大学220億円(4.7%)、6835人(9.6%)。

各市にとって経済波及効果は非常に大きい。もし、こうした地方大学が潰れた場合には、多くの失業者が町にあふれるだけでなく、連鎖倒産で多くの企業が潰れ、市の経済は破綻してしまうだろう。

現在、政府内では、国立大学運営費交付金の新しい算定ルールを巡って激しい攻防が繰り広げられている。予算総額を減らそうとする財務省や経済財政諮問会議の論理が通った場合、数年後には地方国立大学の廃止にもつながりかねない。結果的には、地方自治体は疲弊し、格差はますます広がることになる。こうした地方大学の果たしている役割を理解した上で、新しい算定ルールを策定すべきである。

生産誘発額 雇用創出数 運営費交付金額 県税 市税
弘前大学 406億円 6,774人 119億円 4.2億円 3.1億円
群馬大学 597億円 9,114人 129億円 5.2億円 4.3億円
三重大学 428億円 6,895人 118億円 3.7億円 3.0億円
山口大学 667億円 9,007人 141億円 5.6億円 5.0億円