http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/goudou/dai3/3gijiyoushi.pdf

教育再生会議合同分科会議事要旨
日 時:平成19年5月28日(月)8:30〜10:30
場 所:総理官邸 大会議室
出席者:安倍内閣総理大臣、塩崎官房長官、的場官房副長官、下村官房副長官、山谷総理大臣補佐官、池坊文部科学副大臣、有識者委員15名

○第二次報告案について事務局説明
<V.大学・大学院の改革について>

(中嶋委員)
3点課題を申し上げる。

「9月入学を大幅に促進」となっているが、現在の学校教育法においても9月入学は既に可能であるので、単に「促進」とせず、もっと具体的に書き込んでいただきたい。

大学院教育制度の改革の項目で、「特に大学院重点化対象国立大学の理工系大学院では、同一大学(特に自大学)の同一分野出身の大学院生が最大多数とならない(最大限3割程度)多様性ある環境を目指す」という部分は、野依座長のご意見や、これまでのプロジェクトXでの議論と異なる。野依座長が主として理工系、私は人文社会系を検討し、野依座長が意見をまとめられている。それは関連5会議とも方向性が合致していた。その野依座長のご意見が反映されておらず納得いかない。理工系のみでなく、人文科学系にても純粋培養が多い状況にある。東京外大で朝鮮語の教授を務めてこられた菅野裕臣先生からも、進学を3割に抑えるのは、大学の公平性、透明性を増す上で大変良い事だと評価いただいた。野依座長が理念をまとめられ、私自身も大学・大学院教育、中教審の大学・大学院部会に関わってきた。野依座長がまとめられた意見を報告案に反映いただきたい。

検討課題に掲げられた英語教育については、中曽根文部大臣の頃から「検討」と言われながら進歩がない。「検討」だけにせず、「小学校教育への導入を含む英語教育の検討」にしていただきたい。いつも「検討」で終わっている。

教育再生会議は、新しい時代の世界レベルの高等教育を実現するために進めるべきである。

(葛西委員)
大学・大学院改革について、これまでも何回か述べてきたが、再度私の考えの要点を4つお話する。

一つ目は、深く幅広い教養人育成には賛成だが、そもそも教養とは、小中高校までで基礎が出来、大学で幅を広げて大学院からは深めていく、一生の課題のようなものである。大学・大学院の一時期に集中すればそれで十分ということにはならない。全体を通じたシステムを検討する必要がある。

二つ目は、高度な専門知識をもつ人間の養成については、分野によって早熟型、晩成型がある。特に、数学や物理等は早熟型、すなわち早く育てかつ伸ばすことができる分野であり、大学+大学院を従来の4+X年と固定的に考えるのでは、才能を伸ばすための学習ニーズ、需要を満たせない。アメリカでは、特定の才能を伸ばすために、例えば高校段階から大学で数学を学べるという仕組み、アドバンスプログラムがある。日本の大学・大学院教育も、柔軟で、弾力的で、ダイナミックな組み合わせがありうるというようにすべきである。

三つ目に、世の実情をみると、かつての学部修了者と今の大学院の修士修了者はほとんど同じレベルであり、特に技術系では修士修了者でないと基礎を終えたと言い難い状況である。従って、4+X年と言うよりむしろ、修士まで含めた6+X年と考えるべきである。

四つ目に、良い人材を集めるために、他校出身者を客観的評価のもとで大学院に入学させるのは大切な事であり、その基本になるのは、企業が優秀な人材を採用するのと同様に、競争市場の中で大学が自主的に入学者を選抜し、研究成果という実績を問うことである。予め国が仕組みなどを硬直的に示すよりも、大学院の自主性、自律性と学生の自由な志が上手く組み合わされる事が望ましい。企業も優秀な人材の採用を望むが、出身大学を理由に採用することはない。

それは経営者はアウトプットを問われるからである。競争とアウトプットによる評価を前提に、自主性、自律性を高めるようにすべきと考えるが、今日の案にはこれらのことがほとんど反映されていない。文章でも意見を提出しているので、野依座長と調整いただきたい。調整はお任せする。

(川勝委員)
留学生政策の推進について、
・留学生政策推進の理由に、教育政策と同時に産業政策、外交政策でもあるとなっているが、少子化対策でもあると加えていただきたい。日本に憧れを抱く、優秀な学生を日本への誘導する機会になる。
・「ODA予算の活用などにより、アジア諸国等からの留学生受け入れを促進」をODAの対象国を踏まえ、「アジア諸国ほか、開発途上諸国」にしていただきたい。
・アジアゲートウェイ戦略会議で、2020 年の留学生数の目標数値を掲げている。再生会議にても数値を掲げるべきである。日本人の大学・大学院学生数を約300 万人と考えて、留学生100 万人と入れるか、あるいは、学生4人に1人が外国人留学生であるように目指すなど、数値をいれるべきである。

<改革の視点>について
・大学、大学院の機能を4類型に整理いただいたが、その中で海外に向いているのは「世界的教育研究拠点」のみになっている。4つに加えて「開発途上国の人材育成」を加えていただきたい。具体的には海外青年協力隊の派遣先の国から、逆に人材を迎え入れて学位を与える事を考える。

世界トップレベルの教育水準を目指す大学院教育の改革について・5番目で、「特に大学院重点化対象国立大学」とされているが、12大学を同列に議論するのはいかがかと思う。かつて、国立大学を独立行政法人にした時も、全てを同列にして議論をしたことが、今日の様々な問題につながっている。

最大限3割という理想を掲げる意味は、内外の学生がイコールフッティングの競争をする事である。例えば、最も進んでいる東京大学には教養学部がある。文科1類、文科2類、文科3類の文学部を廃止して、文科3類の教養学部に含める。そして、大学院に進む時には、教養学部出身者と内外の他大学出身者でイコールフッティングの競争になる。こうした範型を示した上で、全体として3割を目指すと示すのが理想的である。これは学部教育と大学院教育を分離する事にはあたらない。また、教養学部では国際的な教養を身につけ、文理融合型の教育を受け、大学院で専門教育を受け、プロフェッショナルを養成できると考える。

(小野委員)
日本の大学を改革して世界水準にすることを国家戦略として、大学への財政支援を充実させることを入れていただきたい。先進国では高等教育に力を入れてお金をかけている。国際競争で日本が不利にならないように支援が必要である。

財政基盤の具体策3の最初の項目で、「競争的資金部分を大幅に拡充」とあるが、この「部分」は削除いただきたい。

もう1つ、具体策3の3つめの項目の運営費交付金の配分で「教育研究面」となっているが、研究面と教育面は分けて評価していく必要がある。

(中嶋委員)
野依座長から文書でいただいた意見を紹介する。「大学院に重点化した中核的大学は、国際公募による第一級の教員の採用と国内外問わず優秀な学生の獲得によって、世界各地の優れた外国人学生が在籍し、同一大学の同一分野出身の大学院生が最大多数とならない(最大限3割程度)多様性ある環境を目指し、国際競争を勝ち抜く世界トップレベルの大学院を形成する。国は、後述の国内外の最高の人材を獲得する体制づくりや、当該人材の待遇、学生支援、教育研究環境、住環境等の都市インフラ整備等を一体として強力に支援する。」

このご意見に方向性が集約されているのではないか、是非これを反映してい
ただきたい。

(品川委員)
提言1について

「T.学力向上に全力で取り組む」の特別支援教育のところには、子供の多様性への対応が触れられている。これを受けて高等教育の段階であきらめてしまわないように、V.の提言1にても「子供の認知と学習スタイルの多様性に応じたきめ細かい、指導・支援を行う」といれていただきたい。国内の大学でも発達的な課題を持つ、いろいろなバックグラウンドのある子供達を受け入れるべきで、そのことを明確に示す必要がある。ただし書くときに、「障害がある」人への支援としないことが大切である。未診断な子供など無数におり、そういう子供も含めて、一人ひとりがその成長発達権が保障されるように必要な支援を受けられるようにしていただきたい。

提言2のところにODA予算だが、これはどういう経緯か。あまり突っ込んだ議論をしていないように思う。また、池田座長代理が挙げていた都市インフラ整備については触れられていない。再考されたい。

(山中副室長)
ODA予算の活用については、多様な資金活用の検討の中で、他省庁も含めて予算を検討しようという議論の中で挙げられた。

(中嶋委員)
ODA予算は、本来は開発途上国援助のもので、原則論では欧米からの留学生にはあたらないが、運用の中で全世界の留学生支援にもっとオープンに活用できないかという議論が第三分科会で出された。

(塩崎官房長官)
第二次報告に向けて大変なご苦労いただき、感謝申し上げる。取りまとめに向けて更に激論を交わし、良い報告にしていただきたい。やるのか、やらないのかが不明確なものを明確に、また、数値目標、期限、どこで誰がやるか等も明確に示していただきたい。第二次報告に盛り込まないと、次の最終報告書は12月になるので、是非ここで知恵をぶつけて問題提起いただきたい。

大学、大学院改革について自分自身色々思いはあるが、1点のみ申し上げる。哲学、文化、アカデミズムなど、深い学問であるが、俗世間と関わりが薄いものについて、大学、大学院で、深みのある研究や教育をやって頂くことは重要であり、これは日本の力の源泉にもなる。

しかしながら、一方で国の形を変える、例えば地方分権を推進するなどで、アカデミズムにいる方々と政策立案者の行き来ができないのはいかがなものか。高い知的レベルがあっても、実学が足りない場合もあり得る。民間からの人材の登用に際して、どこからでも来ていただける様に、あるいは、政策立案と大学コミュニティの間の行き来をもっと進めて、プロフェッショナルスクールに力を入れると良い。例えば、東京大学にはビジネススクールがない。

これから地方分権を推進するには、地方に政策立案できる人材が多数必要になる。ハーバード大学のケネディスクールでは、各州レベルの政策立案者が多数集い勉強している。そこでは、ホワイトハウスで活躍されたような人も自らの経験、知恵を出して、それを均霑していくことにより、国や地方が知的基盤を背景に政策立案を進めるパワーになっている。人材育成、政策立案の両面からみて、大学コミュニティと政策立案コミュニティの間の行き来をもっと図るための考え方、環境、科学技術政策と同時に、プロフェッショナルスクール的なものにも力を入れていく必要があるのかもしれない。人事などのちょっとした工夫で、人材は増えていくと思うが、それは大学院の機能で決まるので、新しい国をつくるための大学・大学院の在り方という事で考えていただきたい。

<W.財政基盤の在り方について>
(小宮山委員)
提言を実行に進めるには、概算要求基準の中に教育再生特別枠を、通常の予算要求枠とは別枠として設け、財政支援を行うべきである。先進国に比較して、教育予算のGDP 比が低い。提言の具体化に向け、概算要求、骨太方針に反映するために「教育再生特別枠を設け、必要な財政支援を行う」と記述して欲しい。

これは再生会議の本気度を問われる所だ。

多様な財源確保への努力の所で、高等教育への公財政投入額が、日本はだいたい2兆円であるのに対して、アメリカは公財政投入額15.1 兆円に加えてエンダウメントの運用益もあわせ20 兆円である。この金額と国際的な競争力を持つ大学の数は比例する。公財政の厳しい状況もふまえながら、せめて4兆円を目指したい。

提言には、民間からの支援により、エンダウメントに相当するものをいかに日本で実現し、教育全体の財政支援を増やすのかを考え、「大学に限らず、教育機関等への寄附に対する優遇税制を抜本的に拡充する事により、民間からの教育投資を促進する」と明記すべき。公財政と民間からの寄附とで全体として日本の教育への投資を充実していく必要がある。アメリカの優遇税制に近づいた位では、寄附文化が根付いていない日本では、同じ効果を期待できない。アメリカの優遇税制以上に踏み込んで、税額控除を導入いただきたい。

国立大学の運営費交付金について、「性急な競争原理導入は危険だ」と題した社説が読売新聞にあった。私はこの社説と同意見である。私立助成金、国立大学交付金も1%削減とされているものを見直していただきたい。

(陰山委員)
奨学金について、教育する側の視点ではなく教育を受ける側からみると「うちの子はどうなるの」という関心になる。ハーバード大学は学費が高いと思っていたが、1割は年収400 万円以下の家庭の学生が学んでいると聞いた。先ほど寄附文化の話があったが、意欲ある子供はどこからでも引き上げていくシステムがアメリカでは整っており、これは示唆に富んでいる。「どんな家庭に生まれても、野口英世みたいになれる」というように分かりやすいメッセージが必要である。

(白石委員)
行革推進法、骨太方針2006 年を踏襲すべきである。国民も財源のスリム化、や重点投資を期待している。運営費交付金についても教育だけが聖域でない事は総理も言われている。そこを再生会議は尊重すべきではないか。

「大学が民間奨学資金を獲得した場合、国による一定割合額のマッチング」とあるが、日経金融新聞の記事で、大学のベンチャーや大学の自助努力について紹介されている。例えばこれらに対して国が上乗せして支援し続けるのでは追いつかない。

初中教育のスリム化を盛り込めていない。財務省の提言で、統廃合によりコストを3割削減でき、これは6割以上の保護者から積極的な評価を得ているとあった。子供の数は4割減っているのに対し、学校数はほとんど減っていない。自助努力による統廃合で、得られたお金を活かして、子供の教育効果を高める事が出来る。

今後の検討課題で、「幼児教育の無償化」と、「学校の適正配置や予算配分の在り方を含め初等中等教育でも選択と集中を目指す」といれていただきたい。

(渡邉委員)
この提言案は、良くでき過ぎ、理想的過ぎて、教育委員会は混乱し、現場は対応が難しいのではないか。絞り込み、あるいは優先順位付けが必要である。また、最終形がもう少し見えるようにしていただきたい。

特に、教育財政の具体策は、具体的ではなく、よく分からない。「検討」「推進」「促進」等は「やらない」と同意語である。明確なメッセージにすべきである。情報公開や給与体系についても、本当にこれで進むのか、疑問である。

絞り込み、優先順位を付け、出来ることから進めるべきとしたい。