『伊勢新聞』2007年6月1日付

配分半減の財務省試算を批判 三重大学長が緊急声明


【津】国立大学運営費交付金の配分に競争原理を加えた財務省試算に対し、三重大学(津市栗真町屋町)の豊田長康学長は三十一日、県庁で記者会見し、「地方における国立大学の意義を訴える」と題した緊急声明を発表した。三重大の交付金が半減する試算に対して「言語道断。そこまで減らされるともたない。中小企業は要らないという主張と同じ」と切り捨て、質の高い研究を維持しながら人材育成や産学連携で地域貢献している「三重大学共同体」の価値を強調した。

運営費交付金は教員の人件費や研究費などに充てる基盤的経費。財務省は二十一日、従来の配分方法に競争的原理を加えようと国からの科学研究費補助金の配分割合に基づく算出を公表した。試算によると全国の85%に当たる七十四大学で減額となり、三重大など五十大学の交付額が平成十九年度予算額と比べて五割以上減る。

緊急声明では、「大学の役割は教育、社会貢献など多方面にわたり、研究費獲得額だけで評価すべきでない。教育を通じて教員や医師など多数の人材を地域に送り出しており、この機能が失われれば大幅な若年人口の県外流出を招くであろう」と注意を促している。

三重大は共同研究と受託研究の受け入れ件数が全国立大学中十三位を占め、文部科学省の委託調査によると県内経済効果が四百二十八億円に上ると地元貢献をアピール。

研究評価についても「三重大をはじめ地方大学の科学研究費当たりの論文被引用数(研究成果の高さを示す)は旧帝大となんら遜色(そんしょく)はなく、大学の規模を考慮すればはるかに効率の良い研究を行っている」と指摘。財務省の提案は「ただでさえ優遇されている一部大学に研究費を集中させ、研究効率の良い地方大学を衰退させる」としている。

財務省試算に対して豊田学長は、「衝撃度は極めて大きい。工夫して頑張ってやってきた。評価制度も積み上げてきた。その努力を一瞬にして瓦解させる案」と批判した。

三重大は国立大学法人化があった平成十六年度に比べ、運営費交付金が約五億円減少し、教員数は三十一人、職員数は五十五人それぞれ減っている。運営費交付金は、「教育費と日常の維持管理費がほとんど。研究費として渡らない」という。

研究成果の競争について豊田学長は、現行の運営費交付金の配分が東大を筆頭とする大規模校に比重を置いていて不公平とし、「一部の大学を恣意(しい)的に厚遇し、スタート時点で差がある中での競争。競争原理と言いつつ競争じゃない」と疑問を投げ掛けた。

緊急声明は財務省などに送付する。同様の抗議は弘前大学など地方大学から相次いでいる。