『陸奥新報』2007年6月3日付

時事随想
国立大交付金「実績による科研費配分に異論」


財務省は5月下旬、科学研究費の実績に基づく運営交付金の配分試算を公表した。

東大や京大など旧帝大系の大学院大学の運営交付金が増える一方で、中規模大学や単科大学では大幅な削減となる。

87国立大学法人のうち、運営交付金増額は13、減額は74であり、そのうち50は50%以上の減額となり、弘前大学もこの中に入る。

大学内に席を置くものとして、運営交付金が現状の半分となった状態を想像すると、一部の研究分野を除いて、教育研究は著しく停滞すると言わざるを得ない。

本学の遠藤正彦学長がいち早く「緊急声明」を発表したのも当然のことである。

小泉純一郎前内閣以来、国の経済政策の基本方針は経済財政諮問会議が大きな役割を持ち、内閣総理大臣のリーダーシップ発揮の先導役を果たしている。

同会議の安倍晋三首相を含む12人のメンバーのうち、大学や財界の動向に詳しい伊藤隆敏東大大学院教授や御手洗富士夫日経連会長らがこの2月末、「成長力強化のための大学・大学院改革について」の答申を発表した。上述の財務省試算はこの提言に基づくものである。

しかし、これまでも科学研究費は大規模大学に手当てされてきたし、法人化直前から鳴り物入りで始まった億単位規模のCOE(拠点形成)研究も同様である。

研究成果に基づく結果であると言われればそれまでであるが、大学の役割は「世界レベルの科学研究」だけが評価の基準ではないであろう。

弘前大学は青森県内の国立大学として、それなりに地域社会に貢献してきた。

教育、医療、産業など多様な分野に人材を供給し、地域振興に努力をしてきた。法人化前後からこれまでの大学内の仕組みを改善し、教育研究を前進させてきた。

特に近年では、青森県を含む自治体との提携、地域企業との共同研究、国際教育の推進に努めている。

また、研究でも大学が有する研究シーズを広く県民に公開する場(産学官連携フェアなど)の設置、受験生などに対する大学の紹介(オープンキャンパス)など、十分とは言わないまでも、多大な努力を重ねてきたのである。

文科省も財務省の動きに危機感を持ち、5月下旬、地方の中堅国立大学(弘前、群馬、三重、山口の各大学)が「地元経済に与える影響」を初めて試算し、公表した。

弘前大学の経済効果は、年間406億円、雇用創出は6774人を数えるという。

これまでにも弘前市や弘前大学は同様の経済波及効果を試算し、その影響力の大きさをアピールしてきた。

今回の財務省試算結果に誘導されない世論構築を、地元から盛り上げることが求められている。

    (弘前大学教授 神田健策)