『愛媛新聞』社説 2007年6月1日付

国立大学改革 競争原理だけでは公平さを欠く


教職員数など規模によって大枠が決まっている運営費交付金や、横並びになっている授業料の見直しなど国立大学への改革圧力が、財務省や政府の経済財政諮問会議の民間議員などから強まっている。

財務省は、従来の配分方法に競争原理を加味した運営費交付金の試算を財政制度等審議会(財務相の諮問機関)に提示した。授業料については大学や学部の独自の教育内容、経費に応じて格差をつけられるようにする方向で検討に入った。

交付金の配分で研究成果などの実績を重視し、授業料収入で教育コストを賄おうというもので、共通の狙いは大学への競争主義、成果主義の導入だ。

大学がコスト意識を持つことは一概に否定しないが、利潤を追求する民間企業と大学とは求めるものが異なっており、大学に競争原理はなじまない。大学が費用対効果ばかりを気にして本来の教育、研究の任務をおろそかにしては本末転倒だろう。

経営基盤の弱い地方の大学への配慮も必要で、地域への貢献などを無視した議論は公平さを欠いていよう。見直しの具体化に当たっては慎重な取り組みを求めたい。

交付金は国立大学への補助金で、二〇〇七年度予算では総額一兆二千億円。人件費を含めた学校運営経費に充てる大学の主要財源だ。

研究提案の内容などに応じて決まる科学研究費補助金の配分割合を加味した財務省の試算によると、愛媛大など全体の85%の七十四の大学法人が減額になる。このうち、地方の教育大を中心に五十の大学は〇七年度予算比で五割以上も減ることになるという。これでは、地方の多くの国立大学は経営が立ちゆかなくなり、存続すら危うくなってしまう。

一律に競争原理を持ち込めば人材や資金、設備ですでに優位に立つ東大や京大など旧帝大を中心とした大規模総合大学と、地方の大学との格差はますます広がるばかりだ。

地方の中堅国立大四校が地元経済に与える影響を検証した文部科学省の試算では、年間四百―七百億円の経済効果と最大九千人の雇用を生み出しているそうだ。大学が果たしている役割は教育と学術研究が中心だが、地方では地域経済への貢献や進学機会の確保など幅広いことを忘れてはならない。

地方と中央の格差是正のためにも、逆に経営基盤が確かな大規模大学の交付金の一部を地方の大学に回す発想があってもいいのではないか。

研究実績に応じて傾斜配分する方式では、成果を数字化できない文系や教養系の大学、学部が衰退するのは明らかだ。高等教育そのものの低下につながらないか心配だ。

少子化が進行し、大学全入時代と言われる。国立、私立を問わず生き残りをかけた大学間競争が、一段と激しくなるだろう。国の財政状況に経営が左右されないためにも、地方の大学に今まで以上の改革が求められるのは言うまでもない。