『北海道新聞』社説 2007年5月30日付

交付金の削減*国立大の淘汰が狙いか


国が国立大に支給している「運営費交付金」を、大学の研究成果や実績に応じて配分する方式に改めようという声が、財務省や経済財政諮問会議から持ち上がっている。

国が学校規模などに応じて一律に配分している現行制度を改め、一部の大学に重点配分して、研究や教育活動を後押しし、世界的競争力をつけた大学を育てようという主張だ。

もっともらしく聞こえるが、問題点が多すぎる。配分方式の見直しに伴う影響を冷静に見極めねばならない。

運営費交付金は年間約一兆二千億円だ。各大学は、教職員の人件費や施設維持費、光熱費などに使っている。

財務省の試算では、交付金を研究実績や成果によって重点配分した場合、全国八十七の国立大のうち、八割以上の七十四校で減額となる。

とくに、研究の実績をあげにくい地方の単科大学や、短期的な成果が見えにくい教員養成系大学の交付金は、軒並み減少する見通しだ。

道内では、学生数も多く総合大学の研究体制を整える北大の交付金額は約四割増えるが、残る六大学は減少する。道教大は九割近い減額だ。大学経営の体力差が拡大する。

運営費交付金は、大学収入の約四割を占める。減額されれば、深刻な経営危機に直面する大学が出かねないことも心配だ。地方国立大の淘汰(とうた)につながる可能性も否定できない。

交付金の配分を、だれがどんな基準で決めるのかという問題もある。財務省は、第三者機関による教育評価基準によって配分額を決めると説明しているが、明確な基準は示していない。

先端分野などの研究成果は見えやすく、高い評価を得やすいだろう。しかし、長期的な視点が必要な教育系や、哲学や数学などの基礎的研究分野が、正当に評価されない懸念がある。

国立大は、二○○四年度の法人化以降、毎年一%ずつ運営費交付金の削減義務を負っている。教職員数の削減にまで踏み切る大学もある。

少子化が加速する中で、大学側にも魅力あるカリキュラム編成や、強みとなる研究分野を開拓する努力が求められている。そのためにも経営の安定と自由な研究を保障する必要がある。

国立大の運営は、国が財政基盤を保障することが基本だ。交付金削減に伴って大学経営が不安定になれば、憲法が保障する「学問の自由」の理念すら揺らぎかねない。

安倍晋三首相は議論の集約を教育再生会議に委ねる方針だ。再生会議は国立大の再編も視野に入れている。

経済効率を優先した大学経営では、高等教育の質を低下させ、ひいては教育をゆがめかねない。とり返しがつかない事態を招くような愚は避けるべきだ。