運営費交付金の競争的配分に反対し、高等教育・研究機関への公的支出
の増強を求める決議

 法人化以降、国立大学では、国から配分される基盤的経費である運営
費交付金が、「効率化係数」や「経営改善係数」によって年々減額さ
れ、多くの大学が経済的な困難に直面している。
このため、すでに、さまざまな歪みが生じている。基盤的な教育研究に
あてる経費は限りなくゼロに近づき、これまで展開されてきた多様で創
造的な研究教育を継続発展することが困難となっている。常勤・非常勤
教員の採用も抑制されている。多くの大学の運営の現状は、長年の努力
で築かれた研究教育基盤を食いつぶしながら、外部資金をつなぎ資金に
回し、教職員の懸命の努力によって何とか機能を維持しているというも
のであり、早晩破綻は免れない。
ところがさらに、財務省は大学の運営費交付金の競争的配分を考え、経
済財政審議会でも同様の議論がなされている。運営費交付金は、高等教
育・研究機関たる大学の最低限度の質の維持を保障する財政基盤であ
り、国は、自己資本を持たせずに法人化させた国立大学に対して、その
教育研究条件整備のために十分な額を配分する責任を有している。した
がって、国家が教育の質の維持向上に責任を有する限り、競争的配分に
なじまないものであることは、自明である。運営費交付金の競争的配分
は、国立大学の財政を破綻させ、高等教育全体の崩壊を導くものであ
る。政府がこのような野蛮な制度の導入を平然と構想することにたい
し、私たちは強い怒りと驚きをもって、反対の意思を表明する。
そもそも、大学はいま、視野の狭い恣意的な基準に基づく競争と評価と
に徹底して曝されている。しかし、国立大学には、設置当時から財政
上・制度上の大学間格差があり、簡単に数値化できる評価の指標項目ほ
ど、こうした歴史的格差を反映しやすい。法人化後の大学評価では、地
方国立大学や教員養成系大学はおしなべて低評価で、一部の大規模大学
や実学的分野のみが重点化の対象とされている。
しかし、地方大学や教員養成系大学などが果たしてきた教育・研究・医
療における役割は、衰微してしまっても日本の学術・文化・産業の大勢
に影響を及ぼさないほどの小さな存在に過ぎないであろうか。このよう
な資源配分の重点化によって地方の大学が壊滅的な打撃をうければ、日
本の高等教育体制全体が崩壊することは必至である。
このように、運営費交付金の削減や競争的配分を行うならば、すでに高
額の学費のさらなる高騰をまねき、多くの大学で、高等教育機関にふさ
わしい基盤的教育・研究態勢の破壊や、あまつさえ財政破綻にまで直結
する。しかも、政府・与党は、これらを国民に示してその信を問う責任
を果たさぬまま強行しようとしているのである。とくに、いま大学に在
学したり入学を目指している学生・生徒から、突然教育を受ける権利を
奪うことは、容認しがたい。
運営費交付金の競争的配分を政府財政計画(骨太の方針)に盛り込むこ
とは、あってはならない。さらに、高等教育・研究機関にたいし、政府
の責任を放棄して、効率化係数や経営改善係数の名の下に交付金や助成
金を削減することを直ちに中止するよう求める。むしろ、大学への基盤
的経費の十分な配分の保障こそ、日本の教育・研究水準を底上げする政
策である。さらに、学費についても、公的支援の拡大によって減額をは
かるべきである。現在のような高額の学費は、憲法の保障する国民の教
育をうける権利を侵害し、国際人権規約における高等教育無償化条項に
も反するものである。学費の減額を出発点として、学費を漸進的に無料
化する政策を採用すべきである。

2007年5月27日
日本科学者会議第38回定期大会