『東奥日報』社説 2007年5月26日付

地域格差を誘導する恐れ/国立大交付金減額


財務省は国立大学法人(全国八十七大学)の運営資金として国が支出している「運営費交付金」について、競争原理に基づき再配分する試算を公表した。

科学研究の成果等という一面で評価した試算で、全国の85%の七十四大学で交付金が減額されるという内容だ。そして50%以上の減額が弘前大学の68.7%など五十大学、50%未満が二十四大学になるとされた。教育系大学は悲惨な内容だ。

国の財政改革という命題の中で、歳出削減が検討されたものという。一つの試算とはいえ、直線的な評価であり、大学間格差を助長し、ひいては地域格差を誘導する恐れのある机上の財政理論といわざるを得ない。

国立大学法人が歳出削減の聖域とはいかない。

しかし、財務省が示した試算が科学研究費の配分実績を尺度にしたことには、異論がある。わずかに東大、京大、東京工業大、東北大、北大など十三大学が増額されるだけ。これに対し、地方大学は脅かされる内容だ。

こうした財務省の成果主義に対抗し、文部科学省は大学の地域経済に与える影響を検証し、弘前大学の四百六億円、雇用創出六千七百七十四人をはじめ、中堅大学が生み出す経済効果を試算。「大学の地域貢献を無視した(今回の)議論は、あまりに乱暴」と、財務省試算に反発した。国が教育再生を叫ぶ中で、多くの大学も同様だろう。

科学研究とはいっても、地方の経済基盤は脆弱(ぜいじゃく)で、大学の産業振興研究(シーズ)への企業参加は極めて少ない。そもそも中央との格差は、歴然としている。

一方で、大学の役割には教育、研究、地域貢献がある。科研費のみを指標に大学を測り、地方切り捨てにつながるシミュレーションに、真に合理性や総合的見地があるのだろうか。

弘前大学の二〇〇七年度予算をみると、予算総額はざっと三百六十億五百万円。約半分は総人件費に充てられる。歳入は付属病院収入百数十億円を見込み、国からの運営費交付金が約百二十億円。これに授業料、検定料、入学金などが加わる。大学の経営に、運営費交付金がいかに寄与しているかがわかる。

時期は示されていないが、仮に試算通り68.7%、約八十億円もの減額なら総合大学の維持、経営は死活問題となる。

いま、日本社会を少子化の大波が襲う。「大学全入時代」に突入するともいわれる。さらに、国は未曾有の財政赤字に苦しんでいる。大学間に競争原理を導入した独立法人化の狙いのその深奥には、こうした時代背景を基にした大学の再編・統合があるといわれる。もちろん、各大学は改革を積極的に進め、一層の努力をする必要がある。

運営費交付金については経済財政諮問会議等でも、一部から見直し論や意見書が出された。弘大は二十五日夜、政府諸会議に対し遠藤正彦学長名で緊急声明を出し「人を育むための百年の計に真に耐えるものか疑いを持たざるを得ない」と批判した。

試算について財務省主計局は「大学改革の一つの論議の中で、交付金配分ルールも論議への一つの材料」としたが、地方をよく見つめる必要がある。