『読売新聞』社説 2007年5月28日付

国立大交付金 性急な競争原理導入は危険だ


国から国立大学に交付される「運営費交付金」は、大学運営の基盤的経費だ。教職員の人件費、光熱費、施設維持費、研究室経費などに使われる。

学生数などを基に算定する今の交付金配分の方法について、財務省や、経済財政諮問会議など政府の有識者会議から、研究成果や実績に基づく配分に改めるよう求める声が強まっている。

これは疑問だ。財政規律を目的とした競争原理を、交付金の配分にまで持ち込む必要があるだろうか。

財務省が公表した試算に衝撃を受けた国立大関係者も多かったことだろう。研究内容や成果に応じて配分されている科学研究費補助金の比率で再配分してみると、全87国立大のうち74大学で交付金が減額されることになるという。

減額が最も大きい兵庫教育大では90・5%減と、今の約1割になる。“ワースト10”のうち9校が教育大だった。地方の国立大も「減額組」がほとんどで、増額組は倍増の東大、京大など旧帝大をはじめ13校にとどまった。

懸念されるのは、教員養成を目的とする教育大や、地域の「知の拠点」となるべき地方大学の経営悪化である。

少子化で、再編・統合の波は国立大にも及んでいる。質の維持、向上のための自主的再編・統合ならともかく、経済効率の観点からの「数減らし」では高等教育全体の質の低下を招く恐れがある。

成果が見えにくい教養系、人文系、純粋基礎科学などの学問分野は衰退してしまうだろう。将来、ノーベル賞に結びつくような萌芽(ほうが)的研究に没頭するゆとりもなくなる。何を「成果」ととらえ、誰が、どう評価するのかも不透明だ。

競争原理の導入を言い出したのは、経済財政諮問会議の民間議員たちだった。これに財務省などが同調した。

反発を強める国立大側には、交付金総枠のさらなる減少を危惧(きぐ)する文部科学省がついた。安倍首相は直属の教育再生会議に議論の集約を求めている。

高等教育への公的財政支援は、日本の場合、対GDP比で先進諸国の半分しかない。厳しい財政の下で、予算拡充は難しいとしても、再生会議には大学の強化につながる前向きな提言を望みたい。

地方の国立大にも一層の改革努力が求められる。他県からも学生が集まるような特色ある教育をし、強みと言える研究分野を持つことが肝要だ。地域経済への貢献や、地元自治体などへの人材輩出で存在意義をアピールする必要もある。

そのためにも、基盤となる運営費交付金の安定確保は欠かせない。成果だけを性急に求めたがる競争原理は危険だ。