『毎日新聞』2007年5月27日付

ニュースワイド2007:国立大の運営費交付金見直し /北海道


◇科研費獲得へ競争激化 5校は5割以上減額

国立大学を運営するため、国が支給してきた「運営費交付金」を各大学の研究実績に応じて配分する方式に見直そうという財務省サイドの動きが波紋を広げている。全国87国立大のうち7大学がある道内では、「導入されれば、生き残れるのは北海道大くらい」と厳しい声も上がる。国立大は04年度の国立大学法人移行で、「親方・日の丸体質」からの脱却を求められ、自主自立へ大きくかじを切った。厳しい財政状況で新たな難問を抱えた国立大の台所事情は?【千々部一好】

■□地方大に打撃

「国立大学法人法に高等教育の向上と均衡ある発展を図ると明記されている。研究実績に応じた運営費交付金の競争的な配分はその趣旨に反した暴論だ」と憤るのは北見工大の常本秀幸学長だ。

全国87大学に対する今年度の運営費交付金は1兆2044億円。各大学の学生・教員数や施設規模を基に、配分される。財務省は文部科学省の科学研究費(科研費)を基に配分し直す試算を今月21日の財政制度等審議会で公表。この考え方は政府の経済財政諮問会議も2月に打ち出していた。

試算では、増額するのは東京大や京都大、北大など13校。74校は減額となる。一番大きな影響を受けるのは教員養成大と地方の単科大。道内でも増額されるのは北大のみで、残る6大学はそろって減額。北見工大を除く5大学は減額幅が5割以上と厳しく、大学の存立自体が危うい。

室蘭工大の宮地隆夫理事は「交付金の削減はもはや限界。教員の削減を加速させないと難しい」と言い、これが道内の大半の国立大関係者の意見だ。帯広畜大の長澤秀行副学長は「国立大が世界に通用する人材を本当に育てているのかという疑問が、経済界を中心に出たのでは。グローバル化の中で、大学も変わりなさいという激励と思う」と冷静に分析する。

■□異なる台所事情

04年度の法人化移行で、国立大の運営は国の丸抱えから一変した。収入源は、(1)毎年1%ずつ削減される運営費交付金(2)授業料や入学金などの学生納付金(3)科研費や寄付金などの外部資金――の三つが主体となり、その枠内で自主的にやりくりする。

道内7大学のうち、北大、道教育大、室蘭工大の台所事情を見てみる。

付属病院を持つ北大は予算規模が年間900億円台と飛び抜けている。毎年減り続ける運営費交付金を病院収入でカバー。道教育大は学生納付金の収入は堅調だが、あらかじめ文科省に申請し、認められた研究に応じて支給される科研費などの外部資金が非常に少ない。室蘭工大は運営費交付金の減少幅を外部資金で補えない状況が続き、収入額が毎年減っている。

■□経費削減に躍起

運営費交付金の削減の流れを受けて、人件費削減や諸経費の切り詰めに各大学は自助努力を強いられている。削減を補うには外部資金の一つである科研費の収入を安定させるのが近道だ。

室蘭工大は05年度から、科研費申請をしない教員を対象に、大学が支給する一般研究費の3割削減を実施している。教員の尻をたたいて、今年度は1億1800万円の科研費を見込んでいる。

北大は4月の役員会で、年2回期末手当と一緒に支給する勤勉手当で業績評価システムを導入する基本方針を決め、今年末からスタートさせる。また、06年度からの4年間で事務局職員を130人減らす。林忠行副学長は「優秀な研究者にはもっとインセンティブ(外部からの刺激)を与えたいが、財源がない。外部からも分かりやすいシステムで、改革に当たりたい」と話している。

しかし大学の主収入である運営費交付金を抜本的に見直す財務省の動きは、科研費の獲得を目指す大学間の競争を激化させることは確実で、各大学は水面下で今後予測される事態に備えている。

◇「財務省試算は乱暴」−−北海道教育大・村山紀昭学長

北海道教育大の村山紀昭学長(64)に、運営費交付金の配分見直しについて、問題点を聞いた。

とんでもない話で憤りを感じる。財務省の試算は科研費を元にしているが、大学で増額するのはひと握り。評価を科研費だけで行うのは乱暴な議論だ。運営費交付金は学生の教育や教員の確保、施設の整備など、大学としての基盤的経費である。食事に例えれば主食に当たり、削るのは難しい。

04年度の国立大学法人化移行で、環境が大きく変わった。移行前までは国の丸抱えで、競争も少なかった。しかし、今は予算の使い方を厳格化し、しっかりとした目的を持って、運営することに180度変わっている。

各大学は6年先を見越した中期計画を立て、目標に向かっているが、道半ばのこの時期に、運営費交付金の配分見直しを財務省が主張するのはおかしい。

今の大学がグローバル化の流れや産業界の期待に十分応え切れていない批判があるなら、素直に受け止めたい。改革を加速させ、日本の大学が弱いとされる独創性を引き出す教育システムに変えていきたい。(談)

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■人物略歴

◇むらやま・のりあき

道教育大札幌校主事を経て、99年から学長。北大文学部卒。上川管内美深町出身。