『河北新報』社説 2007年5月24日付

国立大交付金減額/競争原理だけでは測れない


まさか、こんな試算が出ようとは思いもしなかった。これがそのまま具体化されることはないにしろ、地方から大学が消えかねず、都市部との格差が拡大するばかりではないか。

国立大学法人への補助金である運営費交付金について、競争原理を重視して、財務省がまとめた試算のことだ。

何と、全国87大学のうち、交付金の50%以上減額は50大学、50%未満減額が24大学で、全体の85%に当たる74大学が減額されるという。

増額は、東大、京大、東北大など大規模な総合大学を中心とした13大学だけだ。

東北では、東北大を除く、宮城教育大、福島大、弘前大、岩手大、秋田大、山形大の六つの大学すべてが50%以上減額の対象とされている。

交付金は、人件費を含めた学校運営経費に充てる主要財源だ。国立大学は、授業料・入学金など学生納付金、企業、行政からの外部資金の収入もあるが、交付金は全体収入の半分を占める。2007年度予算では総額1兆2000億円が計上されている。

その交付金をばっさりカットしたのでは、地方の国立大学が立ちゆかなくなるのは火を見るより明らかだ。財務省はこうした試算を提示することにより、統合・再編の機運を高める腹だろうが、あまりに乱暴すぎる。

今回の試算は、研究内容の提案などに応じて決まる科学研究費補助金(科研費)の各大学への配分割合をもとに行われた。

確かに、先端科学分野などで世界的に大学間競争が高まる中、研究の選択と集中を強め、わが国の発展に寄与する大学が必要なことは言うまでもない。米国やEU諸国などと比べ、見劣りする科学研究費を増額し、科学技術立国としての基盤を強化することに異論はない。

しかし、交付金の配分に競争原理や成果主義を過度に持ち込めば、理工系や医薬系の派手で目立つ研究だけが、もてはやされることになりかねない。青臭いことを言うようだが、人文系の基礎研究などがおろそかにされ、学問の本質が見失われる懸念もある。

運営費交付金は大学の、特に地方大学の基礎的経費であり、安定的に確保されなければならないだろう。その前提として、各大学は、少子化による大学全入時代の到来を見越して、知恵を絞り、個性的で魅力ある大学を目指す努力が必要だ。

地方大学は、地味で目立たなくても、地域で働く医師や教員を養成する役割を担う。地元の中小企業の良きアドバイザーとして、共同研究などで花を開かせ、地域活性化の牽引力(けんいんりょく)になることも大切だ。

大学は、地域住民と二人三脚で進む掛け替えのない存在であり、なくなってしまえば、都市と地方の格差は広がっていくばかりだ。

政府の経済財政諮問会議でも民間議員から競争原理や成果主義をもとにした運営費交付金の配分見直しが提言されているという。将来のわが国を考える上で、地方再生や地方の人材育成の視点を忘れてはなるまい。