時事通信配信記事 2007年4月23日付

●教育再生予算確保へ攻防=教員給与などが焦点


2008年度予算概算要求に向け、教育関係予算をめぐる攻防が表面化しつつある。焦点は、教員給与と国立大学運営費交付金。いずれも、財務省は予算配分の重点化と効率化で総額ダウンを狙うが、文部科学省は、「教育再生」を最重要課題に掲げる安倍内閣で最大限の確保を目指す。政府の教育再生会議(野依良治座長)を舞台に、6月の「骨太方針」に向けた議論が行われる見通しだが、首相の教育重視の「本気度」に対する試金石にもなりそうだ。

教育再生会議は「ゆとり教育の見直し」や「道徳教育の充実」などを積極的に打ち出している。また、約60年ぶりに教育基本法が改正されたのに続き、教育改革関連3法改正案も国会提出されたが、制度の枠組みや教育内容の範囲にとどまり、予算を伴う事項に関しては大きく進展していないのが実情だ。

予算に関連する事項では、教員給与について、人材確保法に基づく優遇分(2.76%)の削減が06年度中に決まっている。また、行政改革推進法は、教職員に関し「児童・生徒の減少に見合う数を上回る数の純減をさせるため必要な措置を講じる」と規定しており、削減の方向だ。

これに対し伊吹文明文科相は「(給与優遇分の削減や定数減は)小泉前内閣の下に決まったこと。安倍政権として予算編成に臨むのは来年度予算概算要求が初」との認識を折に触れて強調。「2.76%の削減は決まっているが、新たに2.76%計上することは可能」などとし、削減の方向を「規定路線」とはしない考えを示している。

一方、教員定数の削減は、法律で規定されているため、この方向性を転換するには法改正が必要となる。法改正は事実上、現実的な選択肢にはならないため、文科省としては、例えば非常勤職員やボランティアの活用で各教員の負担軽減を図ることなどを検討したい考えだ。

さらに、予算関連で水面下の綱引きが激しくなっているのが、国立大学運営費交付金。経済財政諮問会議では、大学改革の議論を進めており、同交付金の見直しも柱の一つだ。尾身幸次財務相はこのほど開かれた同会議で、交付金の配分方法に競争原理を導入することなどを提案した。

現行の同交付金約1兆2000億円は、(1)大学運営に最低限必要な教職員の人件費、光熱水費、施設維持費、図書費など(2)各研究室に教育研究経費として配分される経費―を積算し各大学に配分している。

同交付金制度について、伊吹文科相は「地方財政とよく似ている。(地方交付税を)もらったら、どういう判断で地方財政の内容を組むのかは首長の自主的判断」とし、「文科省が使い方をいちいち語るのは、大学の自主性を尊重する流れが逆転するのでは」と主張。交付金見直しに際して、大学の自主性を尊重すべきだとの見解を示している。

同相はまた、「技術開発とか、新規事業の研究は効率的で、ローマの歴史の勉強や中国をずっと支配してきた民族はどのように変わってきたかということを研究しているのは非効率だという考え方は取らない」などと話し、競争原理の導入に疑問を呈した。いずれにしても、同交付金と私学助成を一体にして、総合的な検討が必要との見解だ。

予算絡みの事項ではそのほか、義務教育分野に関しても、児童・生徒、保護者に学校選択を促し、「競争原理」を働かせるべきだとの考えの下、「教育バウチャー制度」の導入の議論などが本格化する。教育関連予算のさらなる削減を目指す財務省と、巻き返しを狙う文科省の攻防に、首相がどのような判断を下すか注目される。