『朝日新聞』2007年2月11日付

「白い巨塔」変わる? 国立大病院の院長選で投票権拡大


医局の教授が人事などで絶大な権限を持ち、山崎豊子の小説「白い巨塔」の舞台になった国立大学病院。そのトップを決める院長選挙に、教授、助教授らの教員だけでなく、看護師や技師、事務職員も参加できるように投票資格を拡大する動きが広がっている。国立大の法人化で大学経営の透明性が求められるなか、教員だけによる選挙は「派閥争いの温床」「閉鎖的で現場軽視」との批判が強いためだ。投票権の「門戸開放」で、国立大病院の体質は変わるのか?

大阪大医学部付属病院(大阪府吹田市)は1月初め、院長選の予備選挙にあたる「1次選挙」を実施した。従来、講師以上の約550人だけが投票できたが、今回初めて、課長級以上の事務職員、看護師長、技師長ら約60人が加わった。

1次選挙は教授の名前を自由に書いて投票する。このうち上位3人が教授会での「2次選挙」に進む。開票の結果、大学院医学系研究科の林紀夫教授(59)が院長に選ばれた。選挙に初めて参加した事務職員は「1次選挙だけとはいえ、教員だけで決められていた院長選びに、私たち現場の職員が関与できるようになった意味は大きい」と話す。

04年の国立大学法人化で、学長を選ぶ「学長選考会議」に外部の人間を参画させることが定められたことなどを契機に、同病院でも従来の院長選のあり方を再検討。「閉鎖的」との批判が根強かった選挙制度を改めることにした。

ある教員は「院長選のたびに、教員同士の多数派争いが起きるなどの弊害があった。体質を根本的に変えるためにも、一般の事務職員にもさらに投票資格を広げてほしい」と話す。

こうした動きは他の国立大病院にも広がっている。大学関係者によると、国立大病院の半数程度が何らかの形で投票権を拡大しているという。

院長選が終わったばかりの名古屋大医学部付属病院では、今回から係長級以上の職員、看護師らに加え、「勤続5年以上のパート職員」も1次選挙の有権者に追加。この結果、有権者は従来の2倍近い約千人になった。病院関係者は「教員だけの投票なら、ある程度動向がつかめたが、有権者が増えたので予想がつきにくくなった」という。

東北大病院は04年の前回院長選から、1次選挙に看護部長や事務部長ら、教員以外の部長級職員の参加を認めた。北海道大病院では、05年の前回選挙から、課長補佐級以上の事務職員や看護師らに門戸を拡大した。

東大病院では、院長候補者を医学部代議員会に推薦する「執行諮問会議」に、各診療科の責任者ら一部の教員のほか、事務部長や看護部長、技師長も加わる方式をとっている。

投票資格を教授に限定している京都大医学部付属病院は来年に院長選を控え、「投票資格の拡大も含めて検討中」としている。

医療ジャーナリストの和田努さんの話 投票資格の拡大は、広く病院全体の声を選挙に反映させる上で有益だ。いずれは医学部の学生が選挙に参加するようなこともあっていい。ただ、投票資格の拡大で、多数派工作が大がかりになるだけでは、という懸念もある。公正さを担保するルールづくりが欠かせない。