教育基本法「改正」に対する北海道大学総合博物館からのアッピール 我々北海道大学総合博物館教員一同は、札幌農学校以来の北海道大学130年の 歴史を振り返り、我が国の教育における民主主義の源流を形成したと評される 輝かしい伝統と、先人の教え、そして、再び歩んではならない過ちの全てを俯 瞰し、自由で民主的な社会の構築と、次代を担う若者の教育、学問研究の発展 に資することを教員の使命と認識し、学問の自由、教育の独立など教育におけ る重要理念を法制化した現行教育基本法の精神を尊重し、この精神に反する 「改正」案には反対することを表明する。 本学は1876年に我が国最初で唯一の学位を授与する大学として発足し、自由 な学風と、自主独立の精神を涵養する、極めて民主的な、人格の完成を目指す 人間育成を教育の基本として我が国の大学教育の源流の一つを築いた。一方、 我が国の官学教育においては、本学の自由な人間を造る民主主義的教育は時の 政権に支持されるには至らず、むしろ政権によって教育が支配され、逆らうも のには弾圧が加えられた。札幌農学校に対しても、その自由な教育精神と、権 力に対しても堂々と正義を主張する卒業生を輩出したが故に、時の政府からの 圧力をうけ、幾度となく存立の危機に瀕してきた。国家主義教育が大学をはじ め初等中等教育をも支配し、教育が我が国を戦争へと導く精神的支柱の形成手 段として使用されてしまったのである。 戦後、国家権力による教育への干渉がもたらす弊害への反省から、憲法で 「学問の自由」が保証され、また、本学の教育精神を強く引き継ぐ、新渡戸稲 造と内村鑑三の教え子たちを中心に草起された教育基本法には、学問の自由に 加え、「教育の独立」の精神が唱われている。教育基本法第10条「教育は、 不当な支配に服することなく…」は新渡戸稲造がその著作『札幌農学校』(英 文 新渡戸稲造全集第23巻)に述べている言葉:「政治は決して教育機関に干 渉してはならない」と同じ精神に由来する。これらの精神に基づけば、大学に おける教育研究は、大学の良心に基づき、国民に対し直接に責任を負うもので あり、普遍的真理の探究と教育と言うその使命から、その時々の政権に支配さ れてしかるべき性質のものでは無い。 我らは、教育の崇高な目的を達成するために、そして、再び教育が国を戦争 に導く思想形成の手段として使用されると言う過ちをくり返さないために、学 問教育の基本理念を宣言するものとして現行教育基本法を強く支持し、教育に 対する政治的介入を可能にする教育基本法「改正」案に反対する。 北海道大学総合博物館教員一同 (館長・藤田正一) |