冴えない質問と珍奇な回答
‐国大協「学校教育法の改正に伴う共通的主要事項についてのQ&A(参考:未定
稿)」読解‐

2006年11月2日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局 評論員 βω

はじめに

国立大学協会(国大協)の定款第5条(事業)は、法人としての国大協の目的を達成
するための事業の一つとして、「(4)国立大学法人の経営に関する支援」を挙げて
いる。その国大協の経営支援委員会人事・労務小委員会の名でつくられた文書「学校
教育法の改正に伴う共通的主要事項についてのQ&A(参考:未定稿)」(以下、
「Q&A」)が流布されている。

このQ&Aは、四部構成計13の質問と回答によって構成された文書で、学校教育法改
正に伴う教員の処遇の変更に関する説明を施そうとしている。だがその内容は、以下
に記すとおり、国大協の無定見を露呈したものとなっている。以下、一問一答を追っ
て読解と批判を記す。

予め結論を記す。このQ&Aは大きく分けて二つの性格を持っている。

一つは、法改正への対応のためのその内容の説明である。だがその説明は少なくとも
簡素であり実用的ではない。また特に新助手の法的位置付けは質問項目ごとにぶれ、
法令遵守のための厳密な解説というよりも各大学の運用上の裁量の立証に重点がある
かのようにさえ読むことができる。大学の管理運営に携わる面々が起草した文書とし
て読むならば目を覆わざるを得ない。新助手の位置付けの、教員と職員との間での臨
機応変なシフトは、総人件費の抑制をはじめとする中期目標・中期計画の達成の一方
策として意図しているとさえ勘繰らせるものである。

新助手制度における、補助職としての位置付けと閉塞した昇級制度との中に、教務職
員問題との相似性を見出せることは論をまたない。今なお全面的な解決に至っていな
い教務職員問題が改正学教法への対応によって、新助手問題として蒸し返される事態
が、このQ&Aを通読すると現実味をもって想像させられる。国立大学法人の中期目
標・中期計画の「達成」と財務内容の「向上」のバイアスのもとで、この新助手問題
は旧弊を更に悪化させる危険を包含している。

いま一つは、一点目とも不可分であり、かつこちらの方が性格としてより重要である
が、助教と新助手の採用を契機とした、専門業務型裁量労働制の適用と任期付雇用の
拡大のための方策の指南である。だがその指南も論理は恣意的で、過誤への依拠さえ
見出される。

各国立大学法人がこのQ&Aに沿って現行助手の労働条件の変更を敢行するならば、
著しい制度変更が若手を中心とする助教・新助手にもたらされる。助教への任期付雇
用の拡大は、任期付が常態であるPDから引き続く不安定雇用の延長となり、その期
間は学位取得後から通算すれば10年近くにも及ぶ。加えて助教にはPDにはない教
育への義務も法的には生じるが、これでは改めて明記するまでもなく労働・雇用条件
の引き下げである。学術研究が求める研究者間の共同・連帯と、雇用における研究者
間の孤立化・分断との緊張関係の中で、大学における若手教員の健全な成長が危機に
瀕している。一方、新助手の職種がこのQ&Aにしたがって野放図に設置されれば、
その問題性は限界を見出せない。

法が施行される時期が迫り、その学内準備は大詰めに差し掛かっている。大学の若手
教職員、とりわけ現行助手にとって、法改正への対応は大学における自らの教育研究
活動を守り発展させるための問題となっている。若手教職員自らが教職員組合運動を
はじめ、取り組みの中に主体的に参画していく必然がここにある。このQ&Aは、大
学教職員組合運動が若手教職員による新たな興隆のための、時宜にかなった提起を示
している。


I 学校教育法の改正前と改正後の教授等の職務概要関係

問1 学校教育法改正に伴い、教授等の職務はどのように変わるのか。

【読解】
現行法と改正法の条文の引用と比較であり、間違えようがない。

問2 現行の助手と新:学教法における助教、助手との相違点は何か。

【読解】
回答は第二段落において、改正学教法における、教育研究を主たる職務とする助教と
教育研究の補助を主たる職務とする新助手との分離を述べた上で、特に新助手の位置
付けについて、「大学等の教員組織の整備に係る学校教育法の一部を改正する法律等
の施行について」(平成18年5月17日付け文部科学事務次官通知)から引用した
「教授、准教授及び助教とは職務内容が明確に異なる職として位置付ける」との記述
を収録する。

その次の段落では、新助手を教員として規定する「一部の法令」として、大学の教員
等の任期に関する法律(以下、「任期法」)及び大学設置基準を挙げ、その根拠とし
て「新:助手が『所属組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務に従事』する
者であること」を挙げる。この文章によって、新助手は法的には教員として扱われる
ことを述べている。

にもかかわらず、その後に「参考」として引用されている「衆議院文部科学委員会に
おける高等教育局長答弁(平成17年6月10日)より」)においては、新助手が研
究者ではないと明確に論じている上に答弁の趣旨は新助手が教員でもないことを示唆
するものとなっている。以下にこの局長答弁の引用を全文記す。

「例えば本法律案におきましては、助手は、教育研究の補助を主たる職務として明確
に位置づけるということとしているところでございます。このため、例えば研究者と
いうことにつきましては、一般にはみずから研究を行う者を指すというふうに考えら
れることからすれば、これは教員ということについても同じ考え方が当てはまると思
いますけれども、新しい制度における助手というものは研究者ではないということに
なろうかと思います。」

このように答弁は、研究者とは一般に自ら研究を行う者であること、教員についても
同様に考えれば「自ら教育を行う者」であること、助手は研究者でないと明言できる
とともに同様に教員でもないと言い得ること、を述べている。

【批判】
問2へのこの回答は、第一段落において従来の助手の「教員組織における位置づけが
曖昧」であったことを述べながら、その次の段落以降は、新助手の規定が曖昧なもの
であることを回答自身が暗に述べつつ(ここまでの記述において、新助手が教員であ
るか否かを明確にしていない)、曖昧だという事実も明記していないため、その曖昧
を再生産する結果となっている。

新助手の法的位置付けの曖昧さは、学教法において教員の定義を明記していない点に
由来する。それゆえに「一部の法令」ごとに教員を個別に定義する結果となる。国大
協の責務には、このような法の不備を政府に改めさせ、国立大学の健全な発展に資す
る法体系を提案する取り組みが含まれているとしても、曖昧の再生産が含まれてよい
はずがない。しかしQ&Aは後段において改めてこの曖昧を再生産する。国大協の意
図が、このような曖昧の再生産による新助手の随意な支配にあるとさえ、この回答は
読める。

なお、新助手の職務は法的にも「補助者」との位置付けであって研究教育に従事する
教授、准教授、助教と異なる。また大学設置基準「教員の資格」においても教授、准
教授、助教の一群と新助手との間には昇格の連続性が絶たれている点でも教員ではな
い。このことを附記する。中央教育審議会大学の教員組織の在り方に関する検討委員
会による「大学の教員組織の在り方について<審議のまとめ>」(平成17年1月2
4日、以下「審議のまとめ」)では、「大学の教員組織の一員として自ら教育研究を
行うことを主たる職務とする若手教員の位置付けに相応していること」を根拠に助教
の職名が採用された経緯と「現行の助手が担っている職務のうち、教育研究の補助
は、
大学教員が教育研究に集中できる環境を醸成する上で極めて重要である」ことを根拠
に助手による教育研究補助の職務の必要性が述べられている点をここに明記する。


II 准教授、助教、新:助手等の適用俸給表等関係

問3 教員に適用されている現行の俸給表体系はどのようなものか。

【読解】
国大協は「この法人の目的に賛同して入会した国立大学法人」を正会員とする法人で
ある(定款第6条)。会員たる国立大学法人が国大協に対して、みずからの国立大学
法人に属する教員の給与体系を質問するだろうか?第二部の冒頭として後段の問答の
導入部という文書構成上の一種のレトリックとはいえ、あまりに馬鹿げた一問がここ
に記されている。

回答では、教育職俸給表(一)の職名と級との対応が記されている。

問4 新:学教法の下で教員に適用する俸給表体系について、法令上の定めがあるの
か。

【読解】
回答の趣旨は、「法令上、…規程等はない」こと、「各大学が…具体的に決定する」
ことの二点である。級構成における職名級が必ずしも必要ではないこと、総人件費へ
の影響を考慮し、承継教職員に対する運営費交付金による退職手当精算が国家公務員
との均衡への留意とを指摘している。

【批判】
一般的には教員全体に当てはまる記述であるが、具体的には助手の助教と新助手への
分離を総人件費抑制の一契機としようとする意図が、続く質問と回答の中に読み取れ
る。

問5 新:学教法の下で教授等に適用する俸給表・級等は現行のままでいいのか。

【読解1】
前問で総人件費の抑制を仄めかした結果、この設問の文言は恣意的である。

この回答では「審議のまとめ」を踏まえたものであることを最初に明記した上で、と
りわけ助教と新助手の扱いについて詳細に述べている。教授、講師、准教授について
は現行の級の適用が記されるのみである。

助教については、現行の助手と比較して、授業科目の担当や大学院学生への研究指導
に関わることが出来る点で異なるものの職務内容等が大きく異ならないという理由
で、現行の級の適用で対応できるとする。その上で、大学院学生指導等関係の俸給調
整額が設けられている場合に、現行の講師以上と同様に大学院学生に対する講義や研
究指導等を担当するものについては調整額2を支給し、現行の助手と同様の場合には
調整数1を支給する対応が例示されている。

【批判1】
これらの例示に付言する「今回の学校教育法改正を契機に新たな枠組みを構築するこ
とも有り得ると考える」との記述が実施に至るならば、その際には助教の職務内容の
精査が前提とならざるを得ない。ところで大学設置基準第十条は「大学は、教育上主
要と認める授業科目(以下「主要授業科目」という。)については原則として専任の
教授又は准教授に、主要授業科目以外の授業科目についてはなるべく専任の教授、准
教授、講師又は助教に担当させるものとする。」と規定している。助教の職務内容と
して、法令上は、学部の講義も担当可能となっているが、Q&Aでは大学院の講義担
当のみが想定されている反面、学部の講義を助教が担当してもこれは給与の変更は不
要とし、職務内容等の大きな差異と見なさない。

助教の職務内容の精査・検討を欠いて給与を論じた結果としての混乱がここに記され
ている。法改正への対応のための解説でありながら、法改正に対応した省令(大学設
置基準)改正は黙過する解説は、用をなさないではないか。しかも、大学設置基準は
既に「一部の法令」の一つとして、新助手を教員であると論じる根拠として引用され
ているのである。必要な資料の都合のよい引用と無視とは、学術研究の府の管理運営
担当者のとるべき態度ではない。むしろ、このQ&Aがここで述べるべきは、改正大
学設置基準への対応のために、助教の講義担当の有無及びその範囲の確定を各大学に
促すことではないか。給与はこれにしたがって決定すればよい。

【読解2】
一方、新助手についての回答は、設問を逸脱した内容を大半とした上で、次の設問に
譲っている。代わって、本設問での新助手に関連する回答は、まず新助手の職務内容
を述べており、「審議のまとめ」に依拠している。続いて専門業務型裁量労働制の適
用が可能であること、任期法に基づいて任期を付した雇用が可能であることを述べ
る。
次いで、新助手職の設置の適否を処遇やキャリアパスなどを考慮した上での検討の必
要性が指摘され、最後に定年年齢の設定を、職務内容に基づけば教務職員を含めた職
員と同じ60歳と出来る一方、「一部の法令」の一つである大学設置基準に基づいて
教員と位置付ける場合には講師以上と同じ定年年齢とすることが出来ることを述べて
いる。

【批判2】
本設問での、新助手に関する部分での回答の回避は、この問題が細心の注意を要する
ことの傍証となる。なお、定年年齢の扱いについて、本設問の回答では新助手を教員
と同等と扱わない場合を想定していることに注意を喚起する。このQ&Aはこのよう
に、新助手の扱いについて、教員として扱う場合と扱わない場合と、設問ごとにぶれ
るのである。

問6 新:助手に適用する俸給表・級としてどのような選択肢が考えられるのか。

【読解】
回答は、新助手を導入しないという選択肢もあり得ることを学教法第58条第1項
に依拠して述べた上で、三つの選択肢を例示する。

(1)では、現行の助手から移行する助教と同じ級(教育職(一)2級)を適用する
場合である。新助手への移行者の職務内容が現行の職務内容と変わらないことがその
根拠であり、同一級が助教と新助手とに適用されることがありえる根拠として、一般
職俸給表(一)における運用を挙げている。

(2)では、現行の教務職員の職務内容に類似した位置付けを根拠にした、教育職
(一)1級の適用である。教務職員の処遇変更が附記されている。

(3)では、職務が補助職であり技術職員の職務内容と類似した部分があること、新
助手のキャリアパスの多様化などを根拠とした、一般職俸給表(一)の適用である。
「併せて、教務職員も一般職俸給表(一)を適用することとする(新:助手への統合
もあり)。」と附言される。

【批判】
ここでも、「教員以外の教務職員」(問4の回答)や技術職員と新助手とが職務内容
において類似していることを根拠にして、教授、准教授、講師、助教の教員と異なる
扱いが例示されている。また(1)の選択肢においては、新助手に教育職(一)2級
を適用する根拠として、法令上の新助手の位置付けが教員であるとの根拠は示せず、
この措置は法令上は「一部の法令」以外の法令への対応の結果となっている。

問7 在職中の助手のうち助教等に移行できなかった者の取扱いはどうするのか。

【読解】
在職中の教員を改正学教法への対応によって職種の移行先が無い教員がいる場合を想
定した設問となっている点に留意する必要がある。回答はそのような想定を棄却して
いるため、設問自体を適切なものにする必要があった。

回答は第一段落では、在職中の助手を、助教と新助手のそれぞれの職務内容に応じて
移行する原則を述べている。一方、第二段落では、現行の助手を新助手に移行する場
合には現行と同様の処遇(「助手」の職名、教育職(一)2級の適用、現行の定年年
齢適用)とすることが求められる、と述べている。

【批判】
現行の新助手相当の職務内容の助手について、移行後も現行同様の処遇を施すことを
述べている点においては、一方的な不利益変更の回避の意図がうかがえる。問6の回
答で示した、新助手の処遇の三つの選択肢のうち(1)が記されねばならない理由の
一つは、移行する新助手の処遇の記載にある。


III 専門業務型裁量労働制との関係

問8 専門業務型裁量労働制とはどのようなものか。

【読解】
Q&Aの趣旨にそぐわない、導入部としての設問であることは問3と同様である。回
答は一般的な説明であるため、論及を割愛する。

問9 国立大学法人化以降の大学教員に係る専門業務型裁量労働制の適用関係はどの
ようになっているのか。

【読解】
回答は第一に、大学の教員であっても労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第
1号が「新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学もしくは自然科学に関する研
究の業務」を具体的業務とする個々の教員に対して専門業務型裁量労働制の適用を可
能としていた、とする。また、労働省告示の一部改正により、大学の教授、助教授及
び講師が行う「大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限
る。)」について平成16年1月1日から専門業務型裁量労働制の適用が可能となっ
たとする。

【批判】
この「労働省告示の一部改正」は「労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6
号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務を定める告示の一部を改正する告示」
(平成15年10月22日、厚生労働省告示第354号)と対応し、「学校教育法
(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究する
ものに限る。)」が専門業務型裁量労働制の対象となる業務に追加された。大学教員
に対する専門業務型裁量労働制の適用の根拠が、現行助手とそれ以外に対して異なる
ことを本回答は改めて明示しているが、いずれも「研究」「教授研究」を論拠にした
裁量労働制の適用となっている点に留意する必要がある。

問10 専門業務型裁量労働制において、どのような点に留意する必要があるのか。

【読解】
回答は助教に専門業務型裁量労働制を適用する根拠については現時点で未確認とする
一方、新助手にこれを適用可能とする条件は、「労働基準法等の一般的な規定に該当
する場合(例:情報処理システムの分析又は設計の業務)」とする。

【批判】
ここでも助教をはじめとする教員と新助手とは区別している。その根拠は職務内容の
相違である。すなわちこの回答は、教育研究を職務内容としない新助手への専門業務
型裁量労働制の適用の、「研究」「教授研究」とは異なる根拠を記した文章となって
いる。


IV 任期法との関係

問11 学校教育法改正に伴い任期法はどのように改正されたのか。

【読解】
回答は改正事実の説明であるが、以後の議論のために論及しておく。

教員の定義の変更と、そこに記されている「助手」をまず丁寧に掲げている。
1 教員の定義(第2条第2項)
(現 行) 大学の教授、助教授、講師及び助手
(改正後) 大学の教授、准教授、助教、講師及び助手

また任期を定めることができる職としてについても明記する。
2 任期を定めることができる職(第4条第1項第2号)
(現 行) 助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内
容とするものに就けるとき
(改正後) 助教の職に就けるとき。

このような説明と一見不整合があるように見受けられるのが、続く「(参考)」であ
る。「(参考)」として、大学教員への任期付与の法的根拠を述べている。いわく、
教職員の任期を付した雇用は一般規定である労基法第14条(契約期間等)の定めに
よることとなるが、公立大学教員に任期を定めることができる3つの場合が任期法第
4条に規定されており、任期法第5条において、国立大学法人、私立大学等の教員に
ついてもこれに該当する場合には任期を定めることに合理性があると認めている。

更に「※」として、任期法は国家公務員法の特例法としての位置付けだったことを記
している。

【批判】
本回答のこのような構成の意図は、つづく設問が示す新助手への任期の付与のための
条件、ならびに任期を付す手続きの解説の中に見出すことが可能である。

問12 改正後の任期法において、どのような点に留意する必要があるのか。

【読解】
回答は冒頭で「任期法改正に伴い実質的に影響を受けるのは助教、新:助手」として
いるが、意図は新助手への任期法に基づく任期付与であることが後段の解説で理解で
きる。

「(1)助教」では、任期法第4条、第5条第1項によって、任期を定めることがで
きると回答する。

本回答は「(2)新:助手」に長文を割いている。第4条第1項第2号の改正に伴っ
て「新:助手という職にあることのみをもって任期を定めることはできなくなる」と
述べながら、任期法に基づき任期を付すことができると述べ、その根拠として「先端
的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教
育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研
究組織の職に就けるとき(同項第1号)」、「大学が定め又は参画する特定の計画に
基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき(同項第3号)」を挙げる。

ここで筆者は改正任期法第4条を引用する。「任命権者は、前条第一項の教員の任期
に関する規則が定められている大学について、教育公務員特例法第十条の規定に基づ
きその教員を任用する場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、任期を
定めることができる。」

次いで改正任期法第2条を第3項までを引用すれば、
「第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定める
ところによる。
一  大学 学校教育法 (昭和二十二年法律第二十六号)第一条 に規定する大学を
いう。
二  教員 大学の教授、准教授、助教、講師及び助手をいう。
三  教員等 教員並びに国立大学法人法 (平成十五年法律第百十二号)第二条第三
項 に規定する大学共同利用機関法人、独立行政法人大学評価・学位授与機構、独立
行政法人国立大学財務・経営センター、独立行政法人メディア教育開発センター及び
独立行政法人大学入試センター(次号及び第六条において「大学共同利用機関法人
等」という。)の職員のうち専ら研究又は教育に従事する者をいう。 」とされてい
る。

【批判】
任期法は、「教員等」の定義において教育研究を職務としない新助手を、任期付与の
対象として規定している。新助手は教育研究を職務としない以上、第4条第1項第3
号に規定される「教育研究を行う職」ではない。したがって、本回答が新助手に任期
法に基づいて任期を付与する根拠は、第4条第1項第1号のみとなる。本回答には、
新助手を「教育研究を行う職」と誤認した過誤に依拠して記されている部分がある。

この過誤を是正するならば、第4条第1項第3号が述べる、例えば期限付きプロジェ
クト型研究においては新助手の任期付採用は認められない、との解説が回答のあるべ
き結論になる。

問13 任期を付す場合、本人同意が必要となるのか。

【読解1】
回答は冒頭で「本人同意は必要である」と明言し、その手続きを、任期法に基づく雇
用の場合と労基法第14条に基づく雇用の場合とに分けて論じている。前者には「(
従前と同様)」と記されているが、後者にはそのような記載はない。

任期法に基づく雇用の場合は、本人同意の必要性について、「新規雇用のみならず、
任期の定めのない雇用から任期の定めのある雇用に異動する場合を含め、任期規則に
定める職に、当該雇用される者の同意を得て行うこととなる。」と述べている。その
上で、労基法第14条に基づく新規雇用の場合の条件によって、任期法に基づく雇用
の手続きにおいても、「任期・更新の有無等に関し明示した上で雇用する場合には、
改めて任期法に基づく同意を得なくともよいと考えられる」と記している。

【批判1】
現行助手の助教・新助手への移行の際の今般の懸念は、移行を新規雇用と同列視し、
本人が任期付与に同意しなければ雇用が継続されないという任期の強要である。本回
答はこの懸念に対して答えないばかりか、「任期法第5条には本人同意に関する明文
の規定はない」とわざわざ附言する(「国立大学法人化前に国立大学教員が適用を受
けていた任期法第4条第2項(本人同意。現行任期法は公立大学教員についての条
項。)と同様の取扱いを行っている。」との解説が付加されている)。

本回答は結局、文脈としては雇用手続きの際に任期・更新の有無等を明示すれば、任
期法に基づく雇用では本人の同意は必要ない、との結論を誘導しているのである。

【読解2】
労基法第14条に基づく雇用の場合については、新規雇用の場合と契約更新の場合と
に分けて論じている。新規雇用の場合は、厚生労働省告示「有期労働契約の締結、更
新及び雇止めに関する基準」(平成15年10月22日・平成15年厚生労働省告示第35
7号)に基づき、雇用の際に当該契約の期間満了後における当該契約の更新の有無を
明示等をすることを求めている。

労働契約締結時の「更新の有無」及び「判断の基準」に係る意思表示の内容を使用者
が変更する場合には、その変更した意思表示の内容を労働者に対して明示するととも
に、「更新の有無」及び「判断の基準」が当該労働契約の一部となっている場合に
は、その変更には当該労働者の同意を要することとされている、とする。

【批判2】
労基法第14条に基づく雇用の場合も、新規雇用の場合は契約更新の有無等の明示の
みが必要であり、労働契約に「更新の有無」及び「判断の基準」が含まれていなけれ
ば本人の同意は必要ない、と述べている。結果として本回答はそのような労働契約を
促すものとなっている。

労基法第14条による任期付雇用が、任期付雇用の方式として、任期法に基づく従前
の方式に新たに加えられうる、との解説が本回答であると理解するならば、問11に
おける「(参考)」で展開される解説の趣旨が明瞭に理解できる。すなわち、任期法
は公立大学教員を対象としたものであるが第5条によって国立大学教員に対しても期
間設定合理性を法的に認めたものであり、法人化前の国立大学教員は国公法によって
労基法は適用除外されており任期法は国公法の特例法という位置付けだった、したがっ
て法人化後の国立大学教員に対する、任期法による任期を付した雇用だけでなく労基
法第14条による任期を付した雇用も法的合理性がある、というものである。

全国大学高専教職員組合(全大教)は、10月12日におこなった「助教等『新教員制度』
に関する文科省緊急会見」において、文科省(平野大学振興課課長補佐、日向野国立
大学法人支援課課長補佐)が全大教の指摘に対して次のように回答したと伝えてい
る。


全大教:(略)助教の資格・能力を有する助手が、任期付きに同意すれば助教となり、
同意しない場合は「新助手」に位置づけられることになると労働条件の不利益変更と
して重大な問題である。それは、現職助手が助教としての資格・能力を持ちながら任
期付きに同意しなければ助教になれないということは、任期のない労働契約を結びな
がら任期が付けられることになり、労働条件の一方的不利益変更であり、労働法規や
判例にてらしても重大な問題がある。(略)現職助手が助教となる条件として助教全
ての職を任期制とすることは、学校教育法の改正趣旨に反し、かつ労働法規等に照ら
しても重大な問題があることを大学に周知・徹底されたい。(略)

現職助手が任期制という別の要因により、助教か新助手への二者択一を迫られること
は学校教育法改正の趣旨に反するものである。

文科省:教員任期法の改正により、大学等の判断で助教にも任期を付けることは可能
であるが、全大教の指摘のように、任期という別の要素によって現職助手で助教とな
るべき職の者が新助手となることは学校教育法の趣旨に反する。


国大協は、助教への任期付与に本人の同意が必要だと述べながら徐々にその必要性を
反故にしていくそのあやふやな説明を明確にいったん撤回し、教員の要求と文部科学
省の説明とを精査した上で、助教への任期付与に関する厳格な条件と手続きとを適切
に説明する責任がある。

以上