『毎日新聞』鳥取版 2006年9月23日付

愛国心:どうなる日本−私の視点/11 声高に言う人間は信用しない /鳥取

 ◆衆議院議員・石破茂さん(49)
 ◇育てるのでなくあるもの−−祝日には必ず国旗掲げる

 男女の愛情と同じで、「愛国心」にも良い面も悪い面も正面から見据える理
性と勇気が必要だろう。ただ、内面で密かに思うものなので、声高に言う人間
は信用しない。教育基本法に定めても、日本が検定教科書である限り思想信条
の自由を侵す心配は少ないが、かといって定めてどうなるものでもない。

 そもそも、育てようとして育つものでなく、元々あるものだ。私は国民の祝
日には必ず、門前に国旗を掲げる。我が家では、それが子どもの仕事だった。
今では鳥取の自宅周辺でも少なく、国旗が風呂敷売り場で売られているのを知
らない人も多いだろう。父はキャリアの行政官として戦地に赴き抑留されたが、
国を否定する親の言葉を聞いたことがなかった。

 世界規模のスポーツイベントで愛国心を感じる若い人が多いというが、あの
熱狂ぶりを見て「ヒトラー・ユーゲント(ナチスの青少年組織)の再来か」と
怖くなった。ああいう人は極右に走りやすくて、権力者にとって本当に利用し
やすい。

 教育の効果はすごい。防衛を専門にやるようになったのは、北朝鮮の現状を
視察したのがきっかけだった。当時の指導者は金日成で、子どもから高齢者ま
でが「素晴らしい!」と徹底的に教えられ、信じている。中国や韓国の歴史教
育も見てほしい。愛国心を作るのは簡単だ。

 だから、教育目的に愛国心を規定するのは難しい。かの国のようになりたく
はないし、今のように自分の国を何となく嫌いになる教え方もよくない。さま
ざまな見方を教えて議論できる教育が望ましいが、国の良い面だけ教えること
につながりかねず、国家主義的な教育をされる危険性がある。

 最近は、自民党内の若い議員を見ても、怖い。過去の戦争を「すべて正しかっ
た」と考えていて、頭は大丈夫かと疑いたくなる。日中戦争は明らかに侵略戦
争だし、韓国併合は植民地化で、自衛戦争の面がある太平洋戦争でも、インド
ネシアの人を日本人化しようとしたのは間違っていた。

 なぜ戦争を始め、途中で止められず、負けたのか――。そこから目をそらし、
責任の所在を不明瞭にするのは愛国心ではない。戦争を語ることがタブーとさ
れてきた反動で、「戦争に負けた」と教わった昭和40年代前半までとそれ以
降の世代の分水嶺が消え、社会が左から右に大きく振れている。

 この2〜3年、大っぴらにナショナリズムが叫ばれ、不快だ。国は戦中、言
論統制により新聞など批判勢力を排除し、従わなければ「非国民」と斬り捨て
た。なぜ同じことを繰り返すのか。そんなやり方では、国を誤っても幸せにす
ることはあり得ない。愛国心をあおって戦争し、負けたのが日本だ。【聞き手・
松本杏】
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 ■人物略歴
 ◇いしば・しげる
 県知事や自治相を務めた元参院議員、石破二朗氏の長男。86年に29歳で
衆院議員に初当選。02年9月〜04年9月に、小泉内閣で防衛庁長官を務め
た。現在7期目。