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『朝日新聞』2006年4月14日付 私の視点 広島女学院大学長 今田 寛 ◆株式会社立大学 安易な設置の広がり懸念 新設大学の運営などを調べた文部科学省の結果が公表された。改善を強く求 められた4大学中、二つは株式会社立大学であった。 株式会社立大学は、構造改革特区制度により登場し、すでに6大学が開学し ている。企業人のニーズに応えるものとして興味深い試みもあり、一括して問 題視するのは必ずしも適当ではない。だが、株主の利益を第一に考えざるを得 ない営利大学が、全国に広がることには不安を覚える。 今回の調査結果でも、教育研究環境や教養教育の充実を求める従来の指摘に 加え、資格試験予備校と差異のない教育、単位認定のずさんさなどの問題が公 にされた。教育の質を規定する専任教員が非常勤講師のような処遇である点も 問題視されている。 当事者は「実務教育を重視する新しい大学だ」と主張する。しかし「大学」 を名乗る以上は、大学の国際基準を無視することは許されない。例えば、ユネ スコ(国連教育科学文化機関)は97年に、学問の自由を行使する義務・責任 を負う大学教員を適切に処遇するよう勧告した。学問研究を十分にせず、資格 取得に必要な知識・技能の伝達に偏った教育だったり、専任教員の待遇が月収 10万円に満たなかったりすれば、日本の大学の質が疑われよう。 ◆ ◆ 近年の日本の大学設置は「事前規制より事後チェックへ」との考え方で規制 緩和が進められてきた。しかし、未熟な18歳の若者が大学の選択を誤れば、 その時間は取り返しがつかない。調査結果が出たのを機に「公」の立場の人々 にはぜひとも反省を望みたい。 第一に、文科省は、大学の設置基準や認可制度を安易に緩めすぎたのではな いか。結果として問題の多い申請に対して、不認可などの断固とした対応がと れなかったのではないか。学習者保護への使命感が薄れていたのではないか。 第二は、規制緩和を主導する内閣府である。株式会社の学校経営参入の解禁 は拙速ではなかったのか。今回問題とされた事業者が構造改革のパイオニアと してふさわしいのかどうか吟味したのか。「特区計画」の認定は適切だったの か。 第三に、特区の自治体である。特区法は「特区計画」の実施主体である自治 体に思い責務を課している。それを十分自覚して対応したのか。単なる施設の 誘致のように手軽に考えていなかったか。事業の実態を把握していたのか。 特区制度はユニークな試みだが、事業者の要望に流され、「公」の責任の分 散・無責任化を助長してはならない。これから長い人生を生きる若者の教育に 安易な試行錯誤は許されない。 ◆ ◆ ユネスコは昨年、大学の質を守る国際的なガイドラインを作成した。質の低 い教育機関を「大学」と名乗らせないことは、国際的な責務である。大学が過 剰といわれる時代、安易な大学設置に拍車をかけることは我が社会にとって益 するものではないと考える。 ◇ 関西学院大や英米の大学で心理学専攻。97年から02年にかけ関西学院大 学長。 |