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『福島民報』論説 2005年12月25日付 大学「再生」の時代 グローバル化、情報化が進展する中で、日本の大学を取り巻く社会状況は、 近い将来に現状からさらに大きく転換することが予想される。一層流動的で複 雑化した不透明な時代となり、より国際競争力の強化が求められる時代の中で、 少子高齢化が進行し、生産年齢人口は大幅に減少すると同時に、産業構造や雇 用形態にも大きな変化が予想されるからである。 このようなメガトレンドの中で、大学のレーゾン・デートル(存在理由)に 対し、大きな変革が求められるのは当然であり、大学は戦後最大規模の変革期 を迎えたといっても過言ではない。 1991年の大学設置基準の大綱化以来、かつての画一化、硬直化した枠組 みが崩れ、大学は新しい時代に向けて改革を進めてきた。それは政治、経済、 社会そのものが混迷を深めている時代の中で、大学の制度も新しい時代のパラ ダイムを求めて変わらなければならないという認識に基づくものである。 21世紀は、大学「再生」の時代になると思われる。米国のジョージワシン トン大学のウィリアム・K・カミングス教授は、その著書「高等教育第三の革 命」の中で、“大学は自らの殻を破って周囲の社会に入り込み、ネットワーク を形成し、ビジネスを創造し、それによって1つの収入源を確保するようにな る”と提言している。そして、そうした動きを大学の「第三の革命」「サービ ス大学化」と呼んでいる。 日本の大学は18歳から21歳の限られた年齢層を対象に急速に拡大してき た。そして大学進学率も50%に達し、まさに量的にはユニバーサル・アクセ ス型の教育環境が実現しつつある。しかし、人的物的資源が必ずしも十分とは いえないままで急速に拡大した傾向があり、質的充実を伴ってきたとは言い難 い面もあるように思う。 2009年問題、すなわち18歳人口が約120万人規模で推移する中で、 類似した数多くの大学が、いわば単一市場(18歳から21歳)を巡って志願 者の獲得競争を展開するという現状は、日本の社会全体として極めて効率性に 欠けるという指摘もある。 このような背景の中で、今年の1月、中央教育審議会から「我が国の高等教 育の将来像」が答申された。答申内容は、21世紀の日本の大学のグランドデ ザインともいうべきもので、7項目の方向性を示している。特に注目すべき方 向性として、地域の生涯学習機会の拠点と社会貢献機能(地域貢献、産学官連 携、国際交流など)が挙げられる。 日本の大学は18歳から21歳の限られた年齢層を対象にした稀な存在であっ た。しかし、これからはより広い年齢層に門戸を開くとともに、生涯学習の場 としてこの機能を拡大していく必要がある。社会人の学習ニーズは、終身雇用 の崩壊などと相まって、かつてないほどの高まりを見せている。 18歳人口が減少していく中、大学の新たな存在基盤となる「本格的な生涯 学習社会」への対応強化は、総合大学としての重要課題である。高学歴、高度 情報社会の学習者はさまざまな社会活動を営む成人たちである。彼らの多様な 学習需要に対応するためには、時間的、空間的、分野的な枠の突破が必要であ り、マルチメディアを利用した遠隔教育の新しい展開が期待されているのであ る。それが大学の「再生」に至る選択肢の1つになるのではなかろうか。(小 野沢元久・日大工学部長) |