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《声明》学校教育法一部改正案の衆議院文教委員会による審議開始に当たって −改正案に含まれるいくつもの重大な問題点を直視し、それらを十分な時間をかけて、 思慮深く審議することを求める− 2005年6月10日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局 1 本日6月10日から、学校教育法一部改正案の審議が、衆議院文教委員会 において開始される。 改正案は、封建的身分関係を教員組織に持ち込むものとして問題視されてい たいわゆる「助ける」との文言を学校教育法58条から削除し、大学の教育職を、 教授、助教授、講師、助手という構成から、教授、准教授、講師、助教、助手とい う構成へ変更し、新たに、各職の資格要件および職務を規定することを、その内 容としている。 改正案に対しては、「それを時宜に適ったもの」あるいは「それに異議はない」と いった意見表明をし、それを歓迎する向きもある。 2 しかし、改正案はその表向きの文言とは異なり、重大な問題点を抱えている。 第1は、改正案が、教授、准教授および助教の間の階層制を是認していること、 そして、その階層制のもとにおいて助教の独立性を大幅に制限することを予定し ていることである。 本改正案は、教授、准教授、および助教の職務を、いずれも、授業、学生指導、 および研究であると規定し、職務の同質性を確認している。にもかかわらず、改正 案においては、教授会の必要的構成員を教授に限定する学校教育法59条の改正 は提案されておらず、教員間の階層制を是認している。 省令である大学設置基準を改正案成立後に改正し、大学組織の決定によって一 方的に、助教に主でない授業を担当させ、プロジェクト研究に従事させることを可能 にしようとしている。第58条から「助ける」との文言を削除し、職間の職務上の関係 についての規定を削除した代わりに、それを省令に丸投げし、階層制を導入しよう としているのである。さらに指摘しなければならないのは、本改正案の一部として 提案されている大学教員等の任期に関する法律改正において、その大学または その学部における助教全員への包括的任期制の適用が可能とされていることで ある(注1)。 現在の助手から「助教」に移行する者は、これまで行ってきた学生指導に加えて、 授業やプロジェクト研究までも、自分が参加していない組織の決定に基づいて、負 担することを予定されている。さらには、改正案の一部となっている任期制法の改 正によって、大学の判断により、包括的に任期制が導入され得るのである。 3 問題の第2は、新しく創設される「助手」が、教育職に位置付けられながら、その 職務が教授、准教授および助教とは異なり、研究教育支援(「研究教育の円滑な実 施に必要な業務」)となっていることである。このため、事務組織における昇進も、教 育組織における昇進も望めない、袋小路の職となる。新「助手」は教務職員が直面 した困難と同じ困難を抱えることになる。 4 第1の問題、すなわち、「助教」の階層制の最下層としての位置付けは、改正案の 基礎となった中央教育審議会大学分科会大学の教員組織の在り方に関する検討委 員会「大学の教員組織の在り方について<審議のまとめ>」(平成17年1月)におい て企図されていたものであった。 この検討委員会は、もともとは、「助教授、助手等の若手研究者が独立して研究を 行うこともできるようにする」ことを目的としていたにもかかわらず、階層制の維持とそ の強化への欲望により、その目的とは異なる結論を示したのである。それは、大学組 織が決定した研究、教育、業務への助教の従事を可能とする省令改正をせよとの提 言であり、そして、助教への任期制の適用を、「助教がキャリアパスの一段階に位置 付けられるものであることから、一般に、このような制度が積極的に活用されることが 望まれる」とする提言である。 そして、第2の問題、すなわち、新「助手」の袋小路化についても、この検討委員会 において認識されていながら、何の手も打たれなかった。そして、この検討委員会 は、教務職員問題の基礎にある、日本の大学に置ける研究支援職および組織の 確立という課題にメスを入れることもしなかったのである。 5 改正案の問題点は以上のことに尽きない。改正案が与える若手研究者養成に 対する否定的な影響も直視されなければならない。 助教には授業等負担が課せられるので、研究に専念する時間が削減され、学部 等の様々な業務の一部の実行も職務として押し付けられるので、その独立性も縮 減する。そして、任期制助教が一般化すれば、現在の助手の一部が享受している、 院生指導の負担を多少負いながらも、任期無しで独立して研究を実行するポストが 消滅することになる。大学における研究支援体制の脆弱さを、ポストドクターの期限 付きのプロジェクト研究への雇用により解消しようとする現在の科学技術政策のもと にあって、多くのポストドクターが、期限付きの研究を行わざるを得ないことの悪弊− 独立した研究を若い時期の行ないえず、短期的に成果の出る研究に関心を払う− が拡大することは必至である。 以上のような事態は、果たして、若手研究者養成のあり方として歓迎されるべき なのだろうか。 6 衆議院文部科学委員会は1日で審議を終了し、同日に議決を行なう予定であるという。 しかし、本改正案には、多くの重大な問題点が含まれている。 教授会の必要的構成員の範囲を教授に限定し続けることの是非。 職間の職務上の関係既定の省令へ丸投げすることの是非。 任期制法改正により、ある大学または学部の助教全体に包括的に任期制を適用するこ とを可能にすることの是非。 新「助手」という袋小路の職をつくることの是非。 大学における研究支援組織の確立の必要性をきちんと検討しないまま、科学技術政策 を進めていくことの是非。 そして、改正がもたらす若手研究者のプロジェクト研究と短期に成果を出す研究への専 念が今後の日本の学術研究に与える影響の吟味。 いずれもが重大な問題であり1日の審議で十分な議論をなしうるものではない。 国会に対し、改正案に含まれている論点の重大性を認識し、十分な時間をとって、参考 人も招致して審議を行なうことを求めるものである。 【注1】教員等の任期に関する法律の改正は下記のようなものであり,決して助手と助教 と読み替えるというレベルのものでないことは明らかである。 《現行》 第四条 任命権者は、前条第一項の教員の任期に関する規則が定められている大学に ついて、教育公務員特例法10条に基づきその教員を任用する場合において、次の各号の いずれかに該当するときは、任期を定めることができる。 一 先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行 われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められ る教育研究組織の職に就けるとき。 二 助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするも のに就けるとき。 三 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就 けるとき。 《改正案》 第四条 任命権者は、前条第一項の教員の任期に関する規則が定められている大学に ついて、教育公務員特例法10条に基づきその教員を任用する場合において、次の各号の いずれかに該当するときは、任期を定めることができる。 一 先端的、学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行 われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められ る教育研究組織の職に就けるとき。 二 助教の職に就けるとき。 三 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就 けるとき。 |