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新首都圏ネットワーク


『朝日新聞』2004年7月12日付

朝鮮学校生の受験資格 国立大の大半容認、生徒には負担


 国立大学は今春の入試で、朝鮮学校の卒業生に受験資格を認めるかどうかを、
学校ごとではなく、生徒一人ひとりについて審査した。審査内容は大学によっ
て開きがあり、書類の作成・提出などが受験生に不必要な負担を強いていると
いう批判がある。実際には大半の大学が受験資格を認めたようだが、基準のはっ
きりしない審査を嫌い、従来と同じように大学入学資格検定(大検)の資格で
受験した受験生が少なくない。各大学はいま、来春の入試に向けて対応を再検
討している。

 九州大は5月25日、朝鮮学校などの生徒の受験資格について、来春の入試
に向けて新しい実施要項を定めた。

 今春との違いは、北海道から九州までの朝鮮学校12校の校名を新たに付け
足した点だ。これにより、12校の卒業生や卒業見込み者は、来春の入試で所
定の申請書と卒業証明書か卒業見込み証明書を出せば受験資格が認められる。
母校の教育課程や内容に関する資料は提出しなくてもよくなる。

 九州大の入学試験実施委員会は昨年10月以降、教育課程やその内容がわか
る資料を提出するよう12校に求め、内容を確認した。こうした対応について
九州大入試課の担当者は「受験生に負担をかけないように配慮しました」と説
明する。

 大阪大は受験資格を認めた相手に渡す「認定証」について、年度の記載を来
春用から削る。年度があると、不合格者が翌年に再受験する場合、同じ手続き
が再び必要になるのではないかと指摘されていた。

 信州大は6月の入学試験委員会で、来春から受験資格の審査に際し、成績証
明書や顔写真の提出を求めないと決めた。「必要がないと判断しました」とい
う。

 東北大はすでに今春の入試の時点で、受験生に提出させる書類を母校の教育
課程がわかる学則などの資料と卒業見込み証明書、申請書だけに絞っている。
来春の入試でも基本的には同様だ。

 入試課の担当者は「受験資格の審査では、受験生が日本の高校と同じレベル
の教育課程を経てきたことと卒業の見込みがあることを確認すればいい。学力
はセンター試験と2次試験の結果を見ればわかることですから」と話している。

 外国人学校の受験資格緩和に積極的に取り組んできた京都大は、来春入試に
向けて審査のあり方を再検討している。「優秀な学生を幅広く受け入れたいと
いうのが本学の考えです」(東山紘久・副学長)

―煩わしさ避け大検利用

 京都朝鮮中高級学校を卒業した黄輝広(ファン・フィグアン)さん(19)
は今春、1浪して京都大医学部に入った。

 大検に合格していたが、「朝鮮学校の卒業生として受験したい」と、あえて
大検の資格を利用せず、受験資格の審査で認められた。

 だが、大阪朝鮮高級学校や東京朝鮮中高級学校などによると、今春の国立大
入試で受験資格の審査を請求せず、大検の資格で受けた生徒が多数いた。審査
手続きの煩わしさや、受験できるかどうかわからない不安からだという。黄さ
んにも「個別審査になっても、やはり大検を取っておいた方がいいでしょうか」
といった相談が後輩から寄せられる。

 大検の試験は高校の学習指導要領の範囲から出題される最大9科目か10科
目を2日間で受験する。今年度は8月と11月の2回あり、最近の合格率は4〜
6割程度だ。

 大学受験を考える朝鮮学校の生徒は1、2年のうちに大検を受ける例が多い。
通常の勉強と並行して準備しなければならず、負担になる。

 日本の高校生が卒業見込みだけで大学受験できるのに比べ、差別的な扱いだ
という指摘もあり、京都の市民グループ「民族学校を考える会」事務局長の江
原護さん(60)は「入試があるのだから、受験資格の審査の段階で必要以上
に書類を出させたり、基準を厳しくしたりすべきでない」と話している。

 「外国人学校・民族学校の問題を考える弁護士有志の会」(共同代表・新美
隆弁護士ら)は今年1月、全国立大学が受験資格の認定について定めた実施要
項を調べ、改善を求める申入書を全大学に送った。

 (1)本番の入試でもないのに学力を判断する(2)成績証明書の提出を求
める(3)志望動機を作文に書かせる――など、必要性や基準が不明確な要項
があると同会は指摘。修業年数や授業時間数の要件を満たした学校単位で、生
徒に自動的に資格を認めるよう求めている。

     ◇     ◇

 <国立大学の受験資格> 外国人学校は「学校教育法上の高校ではない」とい
う理由により、卒業しても扱いは高校中退者らと同様で、大学入学資格検定に
合格しないと受験できなかった。

 文部科学省は昨年に方針を転換。外国人学校の中華学校や韓国学校、欧米系
インターナショナルスクールなどに受験資格を認めた。だが、朝鮮学校は
「(国交がないため)教育課程が確認できない」として判断を各大学に委ね、
各大学は受験資格を認定するための実施要項などをそれぞれ定めている。