独行法反対首都圏ネットワーク


☆“一方通行”の大学改革/香川大生10人が直撃取材 
2001. 9.18 [he-forum 2548] 四国新聞09/17

『四国新聞』2001年9月17日付

“一方通行”の大学改革/香川大生10人が直撃取材

言わず届かず学生の声

 小泉内閣の改革テンポに歩調を合わせるように、大学改革をめぐる動きが慌ただしさを増している。そんな変革の現状を「自分たちの目線で追ってみたい」と、インターンシップの研修先に四国新聞社を選んだ香川大の学生が自ら学ぶ大学の取材に挑戦した。資料集めから関係者のインタビュー、執筆まで、すべてが三年生十人の共同作業という究極の就業体験だ。持ち時間は五日間。締め切りをにらみながらの手探りの取材で、学生たちはどこまで改革の実像に迫ったか。

消えた自治会

はびこる無関心

当局の受け皿も乏しく

 大学改革論議が熱っぽい。でも、足元の動きがわかりにくく、よそごとみたいな感じがある。香川大ではどんな改革が行われようとしているんだろう。
 学生課に取材を申し入れたら、冊子を渡された。表題は「香川大学アクションプラン」。今年四月に学内検討組織が策定したという。さまざまな改革案が並んでいる。でも、もう一つピンと来ない。学生にとって魅力のある大学をつくるのが改革の柱の一つのはずなのに、意見を聞かれた覚えがない。
 そういえば、香川医科大との統合構想や、国立大教育学部の縮小・再編案も、それを知ったのはマスコミ報道。大学は何も説明してくれない。「学生不在」。そんな言葉が頭をかすめ、私たちの取材がスタートした。

役員はイヤ

 「以前は学生自治会があってね。大学との接点になっていた。それが消えて情報の伝達や意思の疎通が難しくなった」と岡田順直副学長。

 学生自治会? 初耳だ。何だろう。

 「香川大学五十年史」などによると、学生自治会は各学部にあり、年二回の学長との懇談会などを通じて、授業料免除制度やカリキュラムの改善を要求。時に大学当局と激しく対立することもあったようだが、盛んに活動していたことがうかがえる。
 ところが、一九八七年に農学部、九〇年に経済学部の各自治会が相次いで解散。最後まで残った教育学部も九九年に活動を停止した。いずれも役員のなり手がいなくなったのが直接の原因という。
 最後の教育学部自治会長を務めた田辺恵三さん(24)=愛知県在住=に話を聞いた。「学生大会や学祭、新入生歓迎コンパの設定のほか、教授会との話し合いの場を設けていた。学生と大学側の潤滑油になっていたと思う」。
 学部横断の学生自治組織で現在あるものといえば、大学祭実行委員会と法学部・経済学部ゼミナール連合(ゼミ連)。しかし、前者は大学祭の企画・運営や高松祭りへの参加、後者は就職活動の支援が中心。いずれも、学生の要望を吸い上げて大学側と交渉する機能は持ち合わせていない。
 学生自治会の廃止は全国的な傾向で、役員の立候補者がいなくなって消滅というケースが大半らしい。自治会が存続しているほうが珍しく、存在していたこと自体が忘れられようとしている。
 経済学部最後の自治会長の花見恵一さん(36)=東京都在住=は「そっかあ、香大に自治会はもうないのか…」と、受話器の向こうで寂しげにつぶやいた。

評価どこへ

 学生自治会の解散で失われた当局との接点。個々の学生は大学との回路を持ちにくい。
 「いや、各種情報は広報誌やホームページに掲載しているし、相談窓口も設けていますよ」と学生課。目安箱も置いて意見や要望を募っているが「いつ見ても空っぽ」と言う。つまり、学生の声を改革案に反映させる用意はあるが、学生が無関心で何も言ってこないから仕方がない、というニュアンスだ。
 でも、大学側が学生の不満や要望を把握していないかと言えば、そんなことはない。
 たとえば、昨年七月に大学がまとめた「学生による授業評価」報告書。ここには、マスプロ教育に対する学生の不満が列記してある。一教室に三百人も四百人も詰め込み、いすが足りなくて座れない講義。教官が一方的にしゃべって終わる授業。でも、改善される兆しはあまり感じられない。
 大学側に、すし詰め授業の改善策をただすと「年間の取得単位数の上限を定めたい」との答えが返ってきた。どうやら学生の受講機会を減らして混雑を緩和しようという作戦らしい。その総量規制の安直さには首をかしげるが、もっと驚いたのは、既にこの方針が決定済みで、近く導入されるという点だった。

協議の場を

 学生自治会の消滅=自己中心的。空っぽの目安箱=無関心。「今どきの学生」について回る形容は、悔しいけれど私たちの大学でも具体的な形になって表れている。「学生不在」の意思決定が「学生の関心の不在」に起因していると言われてもやむをえない側面は確かにある。
 ただ、大学の側が学生の無関心を理由に改善を先送りしてきた印象もぬぐえない。
 学生と大学を双方向のチャンネルで結ぶには、学生代表が大学当局と同じテーブルについて協議するシステムを取り戻す必要がありそうだ。とすれば、自治会を自ら手放してしまった私たち学生がまずアクションを起こさなければならない。

インタビュー

近藤浩二学長に聞く

自ら改革引っ張れ 学生はおとなしすぎる
  ―改革アクションプランには、私たち学生が望む授業形態などの改善案が少ない印象があります。
 近藤学長 いや、教育の活性化こそ改革の中心に据えている課題。正規の教育課程と課外活動の両面で活性化を図りたいが、それには学生がどれだけ活性化するかが要になる。ところが、香川大の学生はおとなしい。自ら何かを要求したり、自分たちから何かを勉強していこうという取り組みが非常に少ない。

 ―学生側に問題が多いと。

 近藤 大学では、学ぶうえでの環境を良くするために学生たちが自ら要求していかないといけない。先生方がやってくれるのを待つという受け身の姿勢が許されるのは高校まで。自立的に生活し、自主的に自分たちで決めて、それに対して責任を持つ。そうした大学の基本を踏まえたうえで自分たちがどう大学生活を送っていくか考えてほしい。
 ―それにしても学生が知らないうちに大事なことが決まっています。もっと情報を流し、私たちの声を聞いてほしい。
 近藤 いろいろ努力はしているが、じかに学生と接し、意見を聞く機会が少なくなった。やはり、学生自治会がなくなったことが大きい。役員になろうとする学生がいないのは全国的な風潮と思うが、皆のために行動を起こそうという意識が欠けているのではないか。新しい自治組織をみなさんが作るということになれば、大学としてできるだけの支援をする。
 ―教室に入り切れないマスプロ教育や教養課程のカリキュラムの編成など大学側にも問題があると思います。
 近藤 マスプロ教育に関しては、同じ授業を二回実施したり、少人数の授業つくって全員が受講できるようにしたい。教養課程の改革では、一、二年生のうちに専門教科に触れて、自分の向き不向きの見極めを可能にし、転学を自由化していこうと考えている。
 ―学生の理解度を無視してどんどん授業を進めたり、熱意の感じられない教授もいます。
 近藤 教育より研究が得意、あるいはその逆に研究より教育が得意という教官がいるのは事実。これまではほぼ一律に講義のコマを振り分けていたが、教官の得意、不得意によって授業と研究の職務の割合を変えてもいいのではないかと思う。

 ―香川大独自の改革案はありますか。

 近藤 特色のあるものとしては、研究活性化の分野になる。既に開設した国際環境法遵守調査研究センターはその一つ。法律的な側面から国際環境法を研究する香川大だけの珍しい組織だ。十月には希少糖研究センターも設置する。

 ―教育、研究の他に改革の柱は。

 近藤 地域との連携。大学はかつてと変わり、地域貢献、社会貢献という役割が増えた。それも間接的にというのでなく社会に直接貢献することが求められている。地域社会が発展するような形で、われわれの知識や技術を提供していきたい。
 ―ところで、香川医科大との統合構想はどうなっていますか。
 近藤 双方の大学でそれぞれ検討を加えてきたが、いよいよ具体的な協議に入りましょうという段階に来ている。私が当初申し上げた二〇〇三年春という線は消えたが、できるだけ早くという点では一致している。九月中には統合協議会を開けるのではないか。
 ―鳴門教育大が四国内の国立大教育学部統合を提案しました。教育学部が四国に一つとなると、香川大がどうなるのか不安です。
 近藤 具体的にはまだ何も決まっていない。ただ、規模の縮小や再編については国が方針を出しているので、考えざるをえない。香川大教育学部が今のままで残りたいといっても、状況として許されないだろう。教員養成課程の規模の縮小、再編、統合を検討しており、年末ごろには形ができてくると思う。

 ―最後に学生へのメッセージを。

 近藤 大学は今、これまでのイメージから脱皮し、大きく生まれ変わろうとしている。そのためには学生がもっと活性化し、改革を後押ししてほしい。いや、むしろ引っ張っていってほしい。

取材を終えて

 「紙面を一ページ提供します。みなさんで取材、執筆して下さい」。こんな宣告を受けて始まった五日間の研修は、四字熟語で言えば悪戦苦闘、試行錯誤、青息吐息の連続だった。
 身近な問題をと、テーマは大学改革に絞ったものを、何をどう書けばいいのか分からない。十人の共同作業は思ったより難しく、だれかが決めてくれないだろうかという“依存症候群”も頭をもたげる。ただ顔を見合わせ、気まずい沈黙。
 それでも手探りの取材が進むにつれ、少しずつ本音や主張が出てきた。異なる意見を調整しながら記事にしていく作業を通して、議論することの面白さ、問題意識が少しずつ明確になっていく喜びを味わえた。
 考えてみれば、大学生活三年目で初めて自分の大学と向き合った気がする。大学に対する不満はいろいろあったが、それを大学に直接ぶつけるでもなく、みんなの要望をまとめるでもなく、仲間内で愚痴を言い合っているだけだった。
 遠い存在と思っていた学長が快く取材に応じてくださり、率直に疑問に答えていただいた。副学長や学生課の人も一つ一つ丁寧に教えてくれた。
 大学のレジャーランド化が言われて久しい。最近は学力低下の指摘も加わって、大学生の評判は芳しくない。そんなレッテル張りに少し反発を感じていたが、私たちもまた大学に妙なレッテルを張っていたようだ。遠く見えていた大学が少し近づいたと今は感じている。
板谷奈保子(教育学部)、磯谷涼子、大森寛子、白石恵子(以上法学部)、生田正俊、出口沙織、矢上明子、津田裕子、鳥井澄江、丸川恵(以上経済学部)が担当しました。


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