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<新教育の森>今どきの地方短大事情
2001.3.21 [he-forum 1743] <新教育の森>今どきの地方短大事情(毎日新聞)


<新教育の森>今どきの地方短大事情

[he-forum 1743] <新教育の森>今どきの地方短大事情(毎日新聞)

毎日新聞ニュース速報


 少子化で高校卒業者数が減少する中、全国の大学、短期大学が入学者の確保にしのぎを削る状況が続いている。中でも立地環境などにハンディのある地方の短大の悩みは深刻だ。学生数減の打開策として外国人留学生の受け入れを本格化したところ、外国人の入学者が日本人を上回る「逆転現象」が起きた短大も現れ始めた。岩手県久慈市のアレン国際短期大学(岩島久夫学長)と、石川県七尾市の七尾短期大学(松原克己学長)のケースから短大の今を考えてみた。


■アレン国際短期大学


 盛岡市から車で約2時間半。アレン国際短期大学がある久慈市は、やませが吹く冷涼な気候が特徴の岩手県北東部にある。国家地下石油備蓄基地が完成し、久慈港湾の整備も進むが、このところ、基幹産業の農業・水産業の不振などで人口は減少傾向にあり、1985年の3万9100人から現在は3万7800人に減っている。


 同短大を取り巻く環境は厳しい。地域の人口減と少子化に加え、岩手県立大などの新設大学が県内に誕生した。過去10年間の新入生は93年度の105人をピークに、95年度を除いて減り続け、99年度は45人に。新年度の外国人入学者が日本人の倍以上に達するという現象は、こうした状況の中で起きた。


 同短大は70年、県北唯一の大学として米国の宣教師タマシン・アレン氏によって設立された。アレン氏は昭和初期の冷害や三陸大津波で大きな被害を受けた久慈市で救済活動をし、幼児教育の場や診療所、農民学校、牧場、小中学校などを次々と建設したことで知られる。それだけに、同短大への地域住民の思い入れは強かった。


 しかし、99年に経営難に陥り、前経営陣が学校運営を投げ出す事態に。存続の危機に市は奨学金や経常費などの補助金を出資し、市民が音頭を取り、小中学校の校長やPTA、市町村長など近隣市町村の42団体が協力会を結成した。「県北唯一の大学の存続を」という地元の期待に、意外な展開が待っていた。


 新年度に入学予定の外国人は29人に上る。単位ごとに受講する科目履修生も合わせると36人で、全員が中国人。一方、日本人の新入学生は16人だけだ。これまでの留学生は過去6年間で計6人だけだったから、ケタ違いの急増になる。


 外国人と日本人の逆転現象について、目黒安子理事長は「大学側の呼び掛けではなく、むしろ外国人の方から入学を希望してきている」と説明する。同短大から4年制大学に編入した留学生が、日本や母国で友人、知人に紹介して広めたのがきっかけだという。


 同短大は単位互換可能な3カ月間の米国留学制度のほか、4年制大学への編入に力を入れている。過去5年間の編入大学は同短大の指定校を含め日本や米国、オーストラリアなど40校以上に上る。「日本で学びたいと考えている留学生がとっかかりとして入学し、2年後、4年制大学へ編入するという流れが受け入れられたのだろう」とみる。


 留学生の増加について目黒理事長は「自国でどんな日本の歴史を学ぼうとも、日本に来て日本人と触れ合い直接理解することが本当の意味での国際平和につながっていく。日本人学生にとっても、世代、国籍を超えたつながりを持つことはプラスになる」と好意的に受け止めている。


 しかし、今後、このまま多くの留学生を受け入れていくかどうかは「来年度を見てから」と慎重だ。「来年度の入学者が何人に落ち着くか、どういう学生たちで何を求めて本学に来ているのかを確かめていかなければ。ただ、単にビザが欲しくて来ただけの人材であれば、地元のプラスにはならないですから」。入学者確保に悩む同短大にとって外国人の入学は追い風だが、予期せぬ出来事だっただけに戸惑いも大きい。 【今村 健人】


■七尾短期大学


 日本海に突き出た能登半島の中央に位置する石川県七尾市。年間約100万人の観光客が訪れる和倉温泉を抱え、大阪から直通特急が乗り入れるこの地に七尾短期大学が開校したのは1988年4月のことだ。「能登振興のために大学を」という県や周辺自治体、地元経済界の支援を受け、市民には「ナナタン」の愛称で親しまれてきた。


 専攻は経営情報学科のみ。男女共学で1学年の定員は150人。コンピューター関連の講義には定評があり、卒業生に対する企業の評価も高い。4年制大学の3年編入にも力を入れ、関西の私大などに進む学生も多い。開校から数年は県内だけでなく、隣接県からも定員を上回る受験生を集めてきた。


 だが、そんな評価とは裏腹に短大を取り巻く状況は厳しさを増してきた。松原学長は「短大経営は危機的状況を迎えるだろうという認識は5年前からあった。能登地区の過疎化は予想以上に進み、18歳人口も大幅に減少している。進学先も都会の大学、4年制を指向するようになり、短大志願者を集めるのはかなり厳しい」と話す。


 今年度の能登地区の公立高校入学志願者は、定員1939人に対して1876人。倍率は0・97倍(前年度0・98倍)で、18学科で定員割れした。


 こんな状況の打開策が、94年4月から始めた外国人留学生の受け入れだ。七尾市と友好都市関係を結んでいる中国・大連市金州区と韓国・金泉市を通じて留学生を招いた。当初は毎年数人だったが、98年から受け入れ人数を徐々に増やし、99年13人、昨年32人。この4月には60人余りを受け入れ、全学年約170人のうち92人が留学生になる。


 七尾市は留学生の生活支援のため、昨年1月から年間1万9200円の国民健康保険料を負担し、アルバイト先も和倉温泉のホテルや旅館に協力を求めてきた。教員にはアパート代の半額を補助している。


 梨田忠信・市国際交流室長は「財源に限りがあるので、必ずしも十分とは言えないが、可能な範囲でバックアップをしている。市としてさらに何ができるのか。市議会でも検討を進めている」と話す。昨年12月には、市議会に高等教育振興特別委員会が設けられた。短大存続を前提に、短大の在り方などが議論されている。


 同特別委員会の仙田忍委員長は「具体的な対応策はこれからだが、市としてある程度の財政支援は避けられないだろう。果たして(市が私学を)どこまで支援できるのか。市民の賛同は得られるのか」と問題の難しさを強調する。


 松原学長は「地元の人材育成と地域づくりへの参画を目的に設立した短大。しかし、地元から学生を集めるのは困難。学生の確保は留学生に頼らざるを得ない。海外にも開かれた短大を特色に、いかに地元に密着するか。試行錯誤を繰り返している」と話している。 【小園 長治】

[2001-03-19-00:10]



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